徳島大学疾患酵素学研究センター共同利用・共同研究「酵素学研究拠点」の木戸博氏

 抗インフルエンザ薬はウイルスの増殖を抑制することにより症状を改善する。しかし、ウイルス増殖抑制により、体内で産生されるウイルス抗原量が減少するため、獲得免疫の発動も抑制される。徳島大学疾患酵素学研究センター共同利用・共同研究「酵素学研究拠点」の木戸博氏らは、抗インフルエンザ薬は獲得免疫系を抑制して抗体メモリーを低下させ、翌シーズンの再感染率を高めるが、immuno-modulation作用を持つマクロライド薬を併用投与することにより、再感染率上昇を有意に抑制できるという研究成果を得ている。同氏が、日本化学療法学会西日本支部総会/日本感染症学会中日本・西日本地方会学術集会(11月5〜7日、開催地:福岡市)の合同シンポジウム「感染症・化学療法のパラダイムシフト」で報告した。

 インフルエンザウイルスは気道粘膜上皮に感染し、増殖する。気道は、粘膜IgA抗体による粘膜免疫などの防御システムを持ち、感染から守っている。木戸氏らは、インフルエンザウイルス感染者は感染前の鼻腔内IgA抗体価が、非感染者に比べて例外なく低いことから、感染感受性を決めているのは初感染部位の粘膜IgA抗体価であると見る。

 抗インフルエンザ薬は、気道粘膜におけるウイルス増殖を抑制することによって効果を発揮する。ウイルスの増殖が抑制されると、ウイルスのRNA複製や蛋白産生も抑えられ、それによって粘膜IgA抗体産生による獲得免疫の発動が減弱することが予想される。木戸氏らは実際に、インフルエンザウイルス経鼻感染マウスの実験で、経口投与したタミフルが気道粘膜の分泌型IgA抗体の産生を有意に抑制すること、すなわち抗体メモリーを低下させることを確認している。ヒトでも同様の結果が得られた。

 そこで、immuno-modulation作用を持つマクロライド薬の1つであるクラリスロマイシン(CAM)をタミフルとともにマウスに投与したところ、タミフル単独投与時に著明に低下した鼻汁中あるいは肺胞洗浄液中のIgA抗体価が有意に回復する成績が得られた。さらに、インフルエンザ患者でIgA産生を検討すると、タミフル単独投与後には認められなかったIgA産生亢進が、CAMを併用投与した症例では有意差を持って認められた。H3N2ウイルス特異的IgA抗体産生は、CAM併用により、タミフル単独時の10倍近く亢進した。

 CAM併用によるIgA抗体産生の亢進は、タミフル使用例だけでなく、リレンザ使用例においても認められた。また、タミフル、リレンザにより血液中のIgG抗体産生も抑制されたが、CAMを併用すると抑制が解除され、抗体産生が促進された。

 次に、患者にどんな恩恵をもたらすのかを明らかにするため、翌シーズンの再感染率への影響を検討した。2008/09年シーズンにA型インフルエンザに罹患した患者の2009/10年シーズンにおける再感染率を、2008/09年シーズンの治療法別に調べた。すると、再感染率は無治療であった群の9%に比べ、タミフル単独投与群では37%、リレンザ単独投与群でも45%と有意に高かったが、タミフル+CAM併用投与群では18%、リレンザ+CAM併用投与でも22%と、いずれも有意な低下が認められた。

 木戸氏は、CAMによる粘膜免疫増強のメカニズムについて、抗インフルエンザ薬によって低下した樹状細胞におけるBAFF(B-cellactivatingfactorofthetumornecrosisfactorfamily)の発現亢進、およびB細胞における活性化誘導シチジンデアミナーゼの発現亢進が関与すると考えており、それを裏付けるデータも得ている。

 木戸氏らの研究は、抗インフルエンザ薬が持つ獲得免疫系の抑制という不利な面をマクロライド薬によって回避できる可能性を示唆したことになる。すべてのマクロライド薬が同じ効果を有するわけではなさそうだが、さらなる研究の進展が期待される。