医療法人和香会理事長の江澤和彦氏

 肺炎は現在、悪性新生物、心疾患に続く、日本人の死因の第3位。1980年頃から右肩上がりに増え、2010年に脳血管疾患を抜いた。肺炎による死亡の95%は高齢者であるとされ、高齢者施設では肺炎対策が最も重要な課題の1つとなっている。その対策の現状と最近の動向が、公益社団法人全国老人保健施設協会理事で、医療法人和香会理事長の江澤和彦氏により、第23回全国介護老人保健施設大会 美ら沖縄(ちゅらうちなぁ)(10月3〜5日、開催地:沖縄県宜野湾市)の初日に行われた第6回老健医療研究会のシンポジウム「エビデンスに基づいた感染症対策」で報告された。

 江澤氏によると、全国老人保健施設協会が2009年2月、同協会正会員3330施設を対象に行ったアンケート調査(回収率42%)において、「不測の事態への対応が必要となった入所者がいた」施設の割合が最も高かったのが肺炎(誤嚥性肺炎含む)で70.5%。2位の褥瘡58.4%、3位の認知症の行動障害56.3%を大きく引き離した。肺炎に対して、自施設で対応があった施設の割合は24.1%であり、70.3%の施設が医療機関へ転院としていた。

 江澤氏はまず、今年春に行われた介護報酬改定で、こうした入所者の施設内で対応可能な医療ニーズに関して、肺炎などを発症した場合の施設内対応(投薬、検査、注射、処置など)に対し、新規に所定疾患施設療養費として1日3000円、連続7日間を限度に算定できるようになったことを紹介した。対象疾患には肺炎のほか、尿路感染症と帯状疱疹(抗ウイルス剤の点滴を必要とする者に限る)が含まれる。「われわれとしては、診療報酬を要望していたが、今回の改定はそれには及ばなかったものの、半歩前進したとは言えるのではないか」と同氏。現在、退所者の約半数は医療機関への退所であるため、施設内対応が増えた分、医療機関への退所が減れば、わが国の医療費の抑制につながり、さらに、在宅復帰の割合が相対的に上がり、在宅復帰の強化を助長することにもなるという。

 肺炎対策としては当然、入所者の肺炎を起こさないようにすることも大切だ。その手立てとして、高齢者で肺炎に至ることが多いインフルエンザの予防徹底が望まれる。江澤氏によると、老健施設におけるインフルエンザ予防接種実施率は、約10年前からほぼ100%近いレベルで推移している。さらに、今年8月には、日本感染症学会から、インフルエンザウイルス曝露後の抗インフルエンザ薬予防投与を早期から積極的に行うことを推奨する内容の提言が行われ、今後、高齢者施設を含め、抗インフルエンザ薬の予防投与が再検討されるかもしれない。

 一方、肺炎の起炎菌として最も重要なのは肺炎球菌であり、肺炎球菌ワクチンの普及も必要になろう。インフルエンザから肺炎となった患者からも肺炎球菌が分離されることが多い。江澤氏によると、成人用の23価肺炎球菌ワクチンで防御できる菌型分離株数の累計は78.8%と高く、また医療費を年間5115億円削減するという高い対費用効果があると報告されている。現在、全国の4割以上の自治体が公費補助を導入している。補助額が高いほど、接種率は上がり、全額負担の自治体では平均接種率が40%を超えている。

 しかし、高齢者全体の接種率はまだ20%にも満たない。江澤氏は、公費補助の推進とともに、肺炎の疫学情報、肺炎球菌ワクチンの効果や、これまで接種不適応とされた「過去の肺炎球菌ワクチン接種」「放射線、免疫抑制薬などの治療中」という項目が2009年10月に撤廃されたこと、他のワクチンとの同時接種も可能になったことなどを広く知ってもらうことが重要だと強調した。