医療法人和香会理事長の江澤和彦氏

 抗インフルエンザ薬はより早期の投与が推奨されているが、予防投与についてはこれまで推奨されていなかった。ところが最近、欧米の指針変更に続き、わが国でも、日本感染症学会から予防投与を推奨する提言が示された。第23回全国介護老人保健施設大会 美ら沖縄(ちゅらうちなぁ)(10月3〜5日、開催地:沖縄県宜野湾市)において、公益社団法人全国老人保健施設協会理事で、医療法人和香会理事長の江澤和彦氏が提言のポイントを紹介した。

 江澤氏は講演のなかで、インフルエンザ対策に関するさまざまな新しい知見を提示した。その1つが、抗インフルエンザ薬予防投与の考え方だ。

 2009年8月に発表されたWHOの新型インフルエンザ薬剤治療に関するガイドラインで、抗インフルエンザ薬であるタミフル、リレンザの使用によって、新型インフルエンザ患者の重症化と死亡が抑制され、入院を減らし、その期間も短縮されるとされ、ハイリスク群にはできる限り早く使用することが推奨された。ハイリスク群とは、5歳未満の幼児、高齢者や呼吸器疾患、心疾患、肝疾患、糖尿病、免疫低下(癌、HIV感染など)の患者。抗インフルエンザ薬の予後に対する効果については、発症48時間以内の投与により有症状期間を0.4〜1.5日短縮すること、抗菌薬を必要とする合併症の発生を43%減少させることなどが明らかにされている。投与のタイミングは、理想的には発症36時間以内、遅くとも48時間以内だが、48時間を過ぎていても重症化が見られる場合は投与すべきとされている。

 抗インフルエンザ薬として、現在、わが国で主に使用されているタミフル、リレンザに加え、最近はラピアクタ、イナビルも使用できるようになったが、各薬で剤型、耐性の起こりやすさなどに違いがある。江澤氏によると、耐性発現がまれとされるリレンザは、タミフル耐性ウイルスが流行した2008〜2009年シーズンでも解熱時間短縮などの効果が認められた。また、腎機能低下例が多い高齢者では、腎排泄型ではないリレンザの有効性が期待される。

 このように抗インフルエンザ薬はより早期に投与することが求められているわけだが、ウイルス曝露後の発症前投与、すなわち予防投与は、耐性化へのリスクを高めるなどとの懸念から、これまで否定的で、WHOも推奨していなかった。ところが、その後、米国や英国で、予防投与の積極的実施を推進する指針が示された。また、わが国でも今年8月、日本感染症学会が「かなりアグレッシブな考え方を打ち出した」(江澤氏)。

 日本感染症学会提言2012「インフルエンザ病院内感染対策の考え方について(高齢者施設を含めて)」で、「予防投与を早期から積極的に行って被害を最小限にしようというもの」だった。高齢者施設では「インフルエンザ様の患者が2〜3日以内に2人以上発生し、迅速診断でインフルエンザと診断される患者が1人でも発生したら、施設や入所者の実情に応じて同意取得を心がけたうえで、フロア全体における抗インフルエンザ薬の予防投与の開始を前向きに考慮する」とされた。

 江澤氏は「このような状況は高齢者施設では頻繁に起こっている。医療経済の観点を含め、現実的かどうか、議論があるところかもしれない」と見る。わが国で予防投与が承認されている抗インフルエンザ薬はタミフル、リレンザとアマンタジンだが、今後の予防投与でも前2者が中心になると見られている。2012〜2013年シーズンが迫るなか、どう対応すべきか。各施設で検討が必要になりそうだ。