介護老人保健施設うらわの里(さいたま市)施設長の五島敏郎氏

 高齢者施設で入所者1人がインフルエンザを発症した。標準予防策に加え、発症14時間後に個室隔離とするなどの対策をとった結果、その後施設内の発症、不顕性感染は見られず、感染拡大を阻止できた――。さいたま市の介護老人保健施設うらわの里施設長の五島敏郎氏が、第23回全国介護老人保健施設大会 美ら沖縄(ちゅらうちなぁ)(10月3〜5日、開催地:沖縄県宜野湾市)で報告した。

 インフルエンザウイルスの感染経路は、基本的には飛沫感染とされる。つまり、くしゃみや咳、あるいは話をするときに出る唾液飛沫によって伝播、感染する。ウイルス量が多いほど、また距離が短いほど伝播しやすい。伝播したウイルスは、気道粘膜に感染し、増殖する。感染後1〜4日、最長7日の潜伏期間を経て発症する。ウイルスを排泄する可能性がある期間は一般に、発症前日から発症後7日間の計8日間と考えられている。患者との距離が2〜3m以内の接触者は飛沫感染の可能性がある。また、接触者の20〜30%は不顕性感染を起こし、新たな感染源になるとも言われている。ワクチンによる発症予防効果は必ずしも高くないため、速やかに飛沫感染対策や発症者・非発症者の動線・空間分離、個室隔離、抗インフルエンザ薬投与などを行うことが望まれる。

 高齢者施設は、病院に比べ、入所者間の接触機会が多く、インフルエンザが発生した際、より蔓延しやすい傾向にある。また、高齢者はしばしば症状が明確に現れず、このことが発見を遅らせ、蔓延を助長する。2011〜2012年シーズンにおいては、各地の高齢者施設6施設でインフルエンザ集団感染が発生し、なかには職員含め、70人以上の患者が出た施設もあった。死亡は全国で10例以上に及んだ。

 このように蔓延しやすい高齢者施設では、より早期の対策着手が求められる。今年8月、日本感染症学会は「インフルエンザ病院内感染対策の考え方について(高齢者施設を含めて)」という提言を発表したが、そのなかでも、抗インフルエンザ薬の使用に関して「フロア全体や入所者全員の予防投与を病院の場合よりもさらに早期から積極的に実施することを提案」している。

 五島氏らの施設では、今年2月、入所者1人がインフルエンザを発症した。80歳代の女性で、入所1日半後の夜間より咳嗽、その約6時間後に体温上昇(38℃)が認められた。咳嗽の程度は軽かった。感染拡大を阻止するため、発症14時間後に個室隔離し、マスク着用とした。発症(咳嗽)19時間後(発熱13時間後)の迅速検査で、A型インフルエンザと診断された。

 感染の可能性がある入所者は、患者と同室であった2人、ホールで3m以内にいた接触者4人の計6人。この6人中5人と患者は、前年秋にワクチン接種を受けている。6人はいずれも、その後、発熱や上気道症状を呈することなく経過した。患者の血清抗体価を調べると、H1N1抗体価はほぼ不変だったが、H3N2抗体価は1280倍に上昇していたため、H3N2ウイルス感染と判断した。これに対して、同室者や接触者(脳梗塞で転院した1例除く)はH1N1抗体価、H3N2抗体価とも上昇が見られず、不顕性感染も否定された。他の入所者、職員においても発症は認められなかった。

 感染拡大を阻止できた理由について、五島氏は「標準予防策に加え、発症14時間で早期隔離を行ったこと、さらに発端者の咳嗽が軽度であったこと、不顕性感染者がいなかったことなどが考えられた」と指摘した。