介護老人保健施設とかち(北海道音更町)施設長の森川利則氏

 高齢者施設のインフルエンザ対策においては、まずウイルスを施設内に入れないようにすることが重要だ。北海道音更町の介護老人保健施設とかち(森川利則施設長)では、季節性インフルエンザ対策として、職員が玄関ホールで来所者全員に手洗い、有症状者のマスク着用を求め、流行警報期にはこの対策を休日も含めて実施してきた。新型インフルエンザ対策としては、流行期〜警報期に、手洗いに加え、検温や有症状者の立ち入り禁止を求めた。その結果、季節性インフルエンザの発生は6シーズンで4件、新型インフルエンザ(H1N1pdm09)は1シーズン0件という良好な成績が得られた。また、施設内発生後の対策により、蔓延阻止にも成功している。同施設のスタッフ3氏が、第23回全国介護老人保健施設大会美ら沖縄(ちゅらうちなぁ)(10月3〜5日、開催地:沖縄県宜野湾市)で報告した。

介護老人保健施設とかちの平奈津美氏

 同施設介護福祉士の平奈津美氏らは、インフルエンザウイルスを施設内に入れないためにどんな対策をとったかを報告した。それによると、平氏らはまず、面会家族、通所利用者、業者などの来所者が、玄関ホールの「ここで手洗いをしてください」「熱、咳などの症状がある方はマスクを着けてください」という掲示を見てどう対応するかを3日間調べた。すると、自発的に手洗いやマスク着用を行ってくれる人は5〜6割にとどまった。そこで、2005〜2006年シーズンから、職員がチェックする体制をとることにした。

 期間は毎年11月1日〜翌年4月30日の6カ月間。職員が玄関ホールで、来所者全員の手洗いを確認し、有症状者にはマスク着用を求めた。こうした対策を、季節性インフルエンザの流行状況が注意報期(発生数が定点当たり10〜29人/週)までは平日8時30分から17時まで(StageI対策)、警報期(同30人以上/週)には休日含め8時30分から20時まで(StageII対策)実施した。また、新型インフルエンザ(H1N1pdm09)の非流行期にはStageI対策を実施。流行期(同1〜9人/週)、注意報期および警報期には、手洗い確認に加え、皮膚赤外線体温計を用いた検温と職員による体温、症状の確認を行い、有症状者には立ち入り禁止を求める体制を休日含め8時30分から20時までとった(StageIII対策)。なお、職員に対しても、症状が出たら即時出勤停止などの厳格な対応を徹底した。

介護老人保健施設とかちの高橋静江氏

 同施設介護福祉士の高橋静江氏らによると、以上の対策を2005〜2006年シーズンから2011〜2012年シーズンまでの7シーズン(うち2009〜2010年シーズンは新型インフルエンザ=H1N1pdm09)続けた結果、同施設内における季節性インフルエンザの発生は6シーズンで4件(1シーズン平均0.67件)、新型インフルエンザは1シーズン0件という良好な成績が得られた。4件の季節性インフルエンザはいずれも、休日のチェック体制がないStageI対策中に発生していた。

 したがって、休日も含めるStageII対策をシーズン全期間実施すれば、発生を完全に阻止できる可能性が考えられたが、その場合はマンパワーやコストが大きな問題となる。「仮に、StageII対策を1シーズン継続したとすると、職員延べ336人、人件費118万円が必要になるが、警報期のみとしたので41人、14万円で済んだ」。StageIII対策は1シーズン中約120日行い、職員延べ215人、76万円を要した。同氏は「季節性インフルエンザのStageII対策に比べると、5倍以上に及んだが、感染力や病原性がはっきりしない新型インフルエンザの場合は、マンパワーやコストをかけても施設内侵入を阻止することのほうが重要だろう」と述べた。

介護老人保健施設とかちの村上由里惠氏

 一方、同施設看護師の村上由里惠氏らは、施設内にインフルエンザが発生した後の二次感染対策について報告した。インフルエンザ確定者が1例のみの場合は、隔離(解熱後3日かつ発症後5日経過するまで)と抗インフルエンザ薬投与(濃厚接触者には予防投与)を実施(Stage A対策)。確定者が2例以上になった場合はさらに、入所者同士の接触を断つ対策(集団リハビリ・レクリエーション・入浴を中止し、居室で過ごしてもらう、食事は居室配膳、介助・見守りを要する場合は食事の座席間隔を2m以上空ける)を加えた(Stage B対策)。

 その結果、7シーズンで4件のインフルエンザ発生があったが、うち2件はStage A対策、ほか2件はStage B対策で収束させることができたという。

 施設全体で地道に取り組んだインフルエンザ対策が実を結んだ好例だった。特に、流行状況に速やかに反応して対処したことが大きく寄与したといえそうだ。