山口大学医学部附属病院薬剤部の尾家重治氏

 医療機関や介護施設では、さまざまな感染症対策が施されているが、なかには的はずれだったり、逆に悪影響が懸念されるものもある。山口大学医学部附属病院薬剤部の尾家重治氏は、例えばインフルエンザ対策においては、感染経路として飛沫感染のみならず、近年関与が否定できないとされている空気感染(飛沫核感染)のリスクも考慮する必要はあるものの、空気中の噴霧消毒は意味がないだけでなく、危険であることを、第23回全国介護老人保健施設大会 美ら沖縄(ちゅらうちなぁ)(10月3〜5日、開催地:沖縄県宜野湾市)の初日に行われた第6回老健医療研究会のシンポジウム「エビデンスに基づいた感染症対策」(座長:医療法人和香会・江澤和彦理事長)で指摘した。 

 医薬品、医療器材の微生物汚染とその対策や消毒薬、抗菌薬の抗菌効果と適正使用を専門とする尾家氏のもとには、感染症対策に関する多くの相談が持ち込まれる。シンポジウムでは、一部の相談事例が紹介された。

 ある保育園から相談されたのは、超音波加湿器による室内空気の噴霧消毒の是非。現場に行ってみると、強アルカリ性消毒薬の次亜塩素酸ナトリウムを主成分とする哺乳瓶消毒剤の希釈溶液を超音波加湿器に入れ、園児のいる保育室空中に噴霧していた。理由は「インフルエンザ予防のため」。確かに、インフルエンザウイルスに対して次亜塩素酸ナトリウムは有効な消毒薬の1つだが「毒性を考えると、噴霧は非常に危険と思われ、すぐに止めてもらった」と尾家氏。「消毒剤と加湿器がセットになっている商品も売られているようだが、噴霧してどれほどの効果があるかは疑問だし、何より人体への悪影響が心配される。基本的に消毒剤の噴霧は望ましくない」と注意を呼びかけた。「もしインフルエンザ感染予防のために室内消毒するのであれば、次亜塩素酸ナトリウムと同じくインフルエンザウイルスに有効で、毒性は低い消毒用エタノールを使ってテーブルなどの上を清拭するのは効果があると思われる」とした。

 「輸液時のインラインフィルター使用を止めてもよいか」という相談もあった。インラインフィルターは、輸液調剤の汚染防止や異物除去を目的に使用されている。米国CDCのガイドラインでは、2002年版において、感染予防目的での日常的使用は推奨しないとされた(現行の2011年版では記載がない)。このため、わが国でもインラインフィルターの使用を止める施設が見受けられる。しかし、尾家氏は「日本と米国では輸液調剤や注射薬の形状が大きく異なることに留意すべき」とし「わが国の施設で安易に止めると静脈炎などを増やす危険性がある」と警告した。

 米国では、多くの施設が輸液を薬局で無菌的に調製し、フィルター濾過も行っている。これに対して、わが国では病棟での輸液調製が一般的であるため、汚染防止の観点から、インラインフィルターは必要とする意見が少なくない。尾家氏も、異物除去の観点から、インラインフィルターの使用中止は問題だとした。わが国においては、現在欧米ではほとんど見られないガラスアンプルの注射剤が多く使用されている。アンプルを空ける際に、陰圧となる薬液側に微細なガラス破片が入ってしまうからだ。尾家氏らは、山口県の10施設で、約200個の高カロリー輸液バッグの残液(50mL前後)を調べたことがある。すると、微生物はいずれのバッグからも検出されなかったが、異物(1.3μm以上)は1バッグ当たり数万個も認められた。異物は主にアンプルのガラス片だった。こうしたことから、尾家氏は「高カロリー輸液時、特に混注する場合はインラインフィルターを必ず使用してほしい」と訴えた。

 尾家氏はそのほか、感染症対策に関して、次のような考えを述べた。(1)カテキンに抗菌力があるとされ、患者のうがいなどに緑茶を使用することが多いが、水よりもMRSA、緑膿菌などが増殖しやすいため、抗菌効果を期待してうがいなどに用いるのは望ましくない、(2)食器洗いなどに使用されているスポンジを調査したところ、3割が緑膿菌汚染されており、そこで検出された緑膿菌の約5%は緑膿菌感染症患者の臨床株と遺伝子が一致したことなどから、病棟などでのスポンジ使用は望ましくない、(3)市販の入れ歯洗浄剤には除菌を謳っているものが多いが、洗浄液が汚染され、肺炎などの感染源になることもあるため、洗浄剤に漬けた入れ歯をそのまま装着するのは危険、(4)グルコン酸クロルヘキシジンや塩化ベンザルコニウムを浸した綿球やガーゼは、皮膚消毒に広く用いられているが、室温で48時間後には著しい菌増殖が認められることから、24時間程度で廃棄するか、滅菌済み個別包装を用いるべき。

 ぜひ感染症対策の見直しに役立ててもらいたいものである。