病院や高齢者施設におけるインフルエンザ流行の被害が依然として大きい現状を打破するために、日本感染症学会は8月20日、早期から積極的な抗インフルエンザ薬曝露後予防投与を行うべきなどとする提言を公表した。わが国で予防投与の適応が承認されている薬剤はリレンザタミフルの2剤であり、各施設では今冬の流行シーズンへ向けて備蓄などの検討が必要となりそうだ。

 日本感染症学会は、2009年のインフルエンザA/H1N1pdm09ウイルスによる新型インフルエンザ発生の初期からその対応について積極的な提言を行ってきた。提言の柱は、インフルエンザ発症後、なるべく早期から抗インフルエンザ薬、特にノイラミニダーゼ阻害薬を可能な限り全例に投与することだった。こうした専門学会としての活動を継続している同学会は、2011年に再編したインフルエンザ委員会を中心に2011/2012シーズンを振り返り、今冬のシーズンに向けた効果的なインフルエンザ対策に供することを目的に、今回の提言2012をまとめた。

 提言2012の名称は、「インフルエンザ病院内感染対策の考え方について(高齢者施設を含めて)」。大前提としてインフルエンザワクチン接種や院内・施設内感染対策の一層の徹底を求めた上で、病院と高齢者施設別に具体的な対応を提言している。

 まず、インフルエンザを発症した入院患者あるいは入所者に対しては、直ちに(原則として48時間以内)ノイラミニダーゼ阻害薬による治療を開始すべきとした。具体的な治療法については、2010年と2011年に公表した提言(2、3)を参照するよう求めた。

 加えて、インフルエンザが院内あるいは施設内で発生した場合は、他の入院患者あるいは入所者への予防投与を行うことを推奨した。この場合の予防投与は、曝露後予防投与(post-exposure prophylaxis)を意味し、できるだけ早期(インフルエンザ初発患者の発症から12〜24時間以内)から積極的な抗インフルエンザ薬の曝露後予防投与を行うよう求めた。

 曝露後予防投与のタイミングあるいは範囲については、病院と施設にわけて対応を明確化した。たとえば病院の場合は、「患者間の接触が少なく、医療者が早くからインフルエンザ症例の発生を把握できる」とした上で、「インフルエンザ患者の発生が1つの病室に留まっている場合は同意取得の上、その病室に限定して抗インフルエンザ薬を予防投与する。病室を越えた発生が見られたら、病棟/フロア全体での予防投与も考慮する」とした。

 一方、高齢者施設等の集団居住施設の場合は、「入所者間の接触が多く、インフルエンザ感染が拡がりやすい特徴があり、加えて高齢者では発症しても症状が不明確なことが多い」とし、「フロア全体や入所者全員の予防投与を病院の場合よりもさらに早期から積極的に実施する」よう提案した。具体的には、高齢者施設では、「インフルエンザ様の患者が2〜3日以内に2人以上発生し、迅速診断でインフルエンザと診断される患者が1人でも発生した場合、施設や入所者の実情に応じて同意取得を心がけた上で、フロア全体における抗インフルエンザ薬予防投与の開始を前向きに考慮すべき」とした。

 ただし、高齢者施設等の中には医師が常駐していない施設も多く認められるとし、「そのような施設において漫然と予防投与が行われることには注意が必要」と指摘し、「予防投与を行う際とその有効性の評価には、外部の感染症専門医や感染制御の専門家へ相談することが重要であり、そのような対応を迅速に行うためにも普段からの連携の構築が必要」などとまとめている。


■参考
1)日本感染症学会提言2012 「インフルエンザ病院内感染対策の考え方について(高齢者施設を含めて)」
2)日本感染症学会新型インフルエンザ対策委員会:日本感染症学会提言 2010-01-25〜新規薬剤を含めた抗インフルエンザ薬の使用適応について〜. 日本感染症学会(2010年1月25日).
3)社団法人日本感染症学会・新型インフルエンザ対策委員会:社団法人日本感染症学会提言〜抗インフルエンザ薬の使用適応について(改訂版).日本感染症学会(2011年3月1日).