国あるいは厚生労働省の研究班が行っているインフルエンザに関するサーベイランスは、患者サーベイランスをはじめ感受性調査病原体サーベイランスなど、6項目14種類以上におよぶ。それぞれのサーベイランスから浮かび上がる2011/12シーズンの特徴について、国立感染症研究所感染症情報センター多屋馨子氏(イラスト)にうかがった。

―― インフルエンザの流行を把握し実効性のある対策を行う上で、サーベイランスは欠かせません。現在、国あるいは厚生労働省の研究班が行っているインフルエンザに関するサーベイランスは表1に示すように、6項目の14種類があります。主なサーベイランスについて、そのポイントをお話ください。

多屋 感受性調査に挙がっている感染症流行予測調査(ヒト)は、厚生労働省健康局結核感染症課が実施している感染症流行予測調査事業の一環として行われているものです。この事業は、厚労省の調査協力依頼に応じた都道府県(衛生研究所、保健所など)が、地元の協力医療機関から検体(血清など)と疫学情報を提供していただき、国民がインフルエンザウイルスに対する抗体をどれだけ持っているのかを測定しています。

 国立感染症研究所(感染症情報センターと各疾病担当部)は、厚労省から調査依頼を受けて、協力に応じる都道府県の衛生研究所や保健所等の調査を、標準血清提供などで支援し、また調査結果の取りまとめと結果の公表を行っています。

表1 インフルエンザに関するサーベイランス

―― 感染症流行予測調査のそもそもの目的は何なのでしょう。

多屋 感受性者、つまりこの調査において抗体保有率が低かった年齢群の人に対しては、ワクチン接種をはじめとする予防策をとるよう注意喚起することを目的として実施しているものです。例年、7月から9月にかけて、検査用の採血が行われています。なぜ、7〜9月かというと、前シーズンが終息しているのと次のシーズンが始まる前でまだワクチンの接種が始まっていない時期だからです。この時期の保有率を把握することは、冬のインフルエンザ流行を予測する上でとても重要となるのです。

―― 昨シーズンは、3回にわたって流行シーズン前のインフルエンザ抗体保有状況を速報しています(1〜3)。たとえば図1は2011/12シーズン前半の主流だったH3N2亜型に対する抗体保有率の結果です。

多屋 ここでいう抗体保有率とは、感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上の抗体保有率を示しています。また、抗体保有率が60%以上を「高い」、40%以上60%未満を「比較的高い」、25%以上40%未満を「中程度」、10%以上25%未満を「比較的低い」、5%以上10%未満を「低い」、5%未満を「きわめて低い」と表しています。

 保有率が低いほど発症リスクは高まるわけですから、こうした人に対する重点的な対策が必要という警告を発することできるわけです。

図1 年齢群別にみたA(H3N2)亜型抗体保有率(感染症流行予測調査)

―― 2011/12シーズンでは、(1)A/California/7/2009 [A(H1N1)pdm09亜型]、(2)A/Victoria/210/2009 [A(H3N2)亜型]、(3)B/Brisbane/60/2008 [B型(ビクトリア系統)]、(4)B/Wisconsin/1/2010 [B型(山形系統)]の4種類の株に対する抗体保有率を調べています。(1)と(2)と(3)はワクチン株で、(4)だけがワクチン株ではありません。

多屋 ワクチン株に対する抗体を見ているのは、ワクチン株は流行する可能性が高いという前提で選定されているからです。(4)が調査対象になっているのは、最近のB型の流行株をみると、ビクトリア系統と山形系統が混在しているためです。監視が必要と判断されているのです。

―― 抗体保有率は、あくまでその年のワクチン株に対する抗体を国民がどれだけ持っているかを見ているもので、実際の流行株に対する抗体を見ているものではないわけですね。

多屋 流行株については病原体サーベイランスで把握しています。インフルエンザウイルス分離・検出速報として国立感染症研究所のホームページで公開されています(4)。

―― 2011/12シーズンは、流行の前半で、ワクチン株の抗体と反応性が低いH3N2株が検出されており、三重県などから注意喚起の報告がされていました(5)。

多屋 ワクチン株に類似した株に対する抗原性の類似性を調べた調査結果(6)が出ていますが、2011/12シーズンは、H3N2については、変異株と判断されたものが45.6%でした。前シーズンの調査では変異株が18.8%でした。2011/12シーズンは流行株の半数近くが変異株だったことになります(図2)。

―― インフルエンザワクチンの選定過程や課題につきましては、のちほどインフルエンザ研究センターの方にうかがうつもりですが、こうした変異株の流行を事前に、それもワクチン株を決定する前に、ある程度把握できるようにならないものでしょうか。

多屋 インフルエンザワクチンが抱えている大きな課題だと思いますが、解決は非常に困難です。

―― 感染源調査の中に感染症流行予測調査(ブタ)がありますが、これは。

多屋 新型インフルエンザウイルス侵入監視を目的に実施しているものです。ブタの鼻腔ぬぐい液からインフルエンザウイルスを分離するもので、年間1000検体ほどが調べられています。

―― これまでの結果はいかがですか。

多屋 2010年冬に採取された2検体から、赤血球凝集活性を持つウイルスが分離されています。詳細な検査の結果、H1N1pdm09亜型のインフルエンザウイルスであることが確認されています。H5亜型、H7亜型、H9亜型のインフルエンザウイルスはいずれも分離されていません。

―― 年間1000検体という制限はあるのでしょうが、これまでのところ、鳥インフルエンザH5N1ウイルスは見つかっていないわけですね。

多屋 年間1000検体で十分かという問題はあります。厚生労働省は多くの都道府県に呼びかけて協力をお願いしています。ただし、インセンティブをどのようにもっていくべきかなど、大きな課題があるのも事実です。

―― 症候性サーベイランスについては最近、取り組みが始まったものですね。

多屋 薬局サーベイランス、学校欠席者・保育所欠席者サーベイランスについては、2010年に厚生労働省の研究班で大日らが開発し同年から本格運用を始めたものです。「症状」に焦点をあてたサーベイランスで、新興・再興感染症の流行、特に未知あるいは稀な感染症に対する「早期探知」を迅速に行うことを目的としています。

―― リアルタイムに異常を察知し、その情報を関係機関で共有する仕組みになっています。

多屋 症候性サーベイランスは参加施設・機関も増えており、カバー範囲も広がっています。それにともない精度も上がっていくものと期待されます。

(聞き手;三和護=日経メディカル別冊編集部)

■参考情報
(1)感染症流行予測調査速報の第1報(2011年11月18日号)
(2)感染症流行予測調査速報の第2報(2011年12月2日号)
(3) 感染症流行予測調査速報の第3報(2011年12月27日号)
(4)インフルエンザウイルス分離・検出速報
(5)三重県における集団発生事例から分離されたAH3亜型インフルエンザウイルス
(6)<速報>国内のインフルエンザ流行株の抗原性、遺伝子系統樹解析および薬剤耐性株の検出状況―2011/12シーズン途中経過
(7)感染症流行予測調査
(8)症候性サーベイランス