日本では2009年12月にDPP-4阻害薬が初めて発売され、現在、7剤が上市されている。最近の幅広い使用状況を踏まえると、2型糖尿病に対する第一選択薬の1つになってきていると考えられる。このように処方頻度が急速に高まったDPP-4阻害薬について、同薬の特徴や効果、糖尿病診療における役割などを、東京医科大学の小田原雅人氏に解説してもらった。


 日本で2型糖尿病が増えてきた要因の1つは、肥満の増加です。摂取カロリーは増えていませんが、運動不足の結果としてBMIが高まってきたことが、重要なファクターと考えられています。運動しないことに伴う肥満傾向は、インスリン抵抗性の亢進を招きます。それでも、日本人のBMIは、欧米人に比べるとまだ低い状況です。米国人の2型糖尿病患者は平均BMIがだいたい33kg/m2ですが、日本人は少しずつ上昇しているものの、25kg/m2に近づいているというレベルです。

DPP-4阻害薬の普及に伴いSU薬は低用量にシフト

 2型糖尿病の病態は、主にインスリン抵抗性の亢進がベースになっている場合と、インスリン分泌不全がベースになっている場合の大きく2つに分けられます。どちらのタイプであるかを厳密に判定するのは容易ではありませんが、前者は肥満の人が、後者はやせている人が多いので、肥満度がある程度目安になります。

 日本人では、インスリン分泌不全型の糖尿病患者が多いので、DPP-4阻害薬やSU薬といったインスリン分泌促進系の薬剤の方が効果は高く、血糖コントロールをする上で重要な役割を果たしています。DPP-4阻害薬が登場する前は、おおよそ3分の2の患者がSU薬を服用していました。しかし、現在では、日本で処方が増えている経口血糖降下薬はDPP-4阻害薬とメトホルミンだけです。SU薬の場合、使用している患者数よりも、患者1人当たりの使用量が減っています。すなわち、低用量の処方にシフトしつつあるのです。

 DPP-4阻害薬は、日本人で効果が高いことが明らかになっています。あるメタ解析によれば、DPP-4阻害薬によるHbA1cの変化は欧米人では−0.7%でしたが、日本人では−1.4%と、約2倍の差がありました。また、日本と欧米で行われた第III相試験のデータで比較しても、日本人の方が低下度は大きいので、急速に処方が拡大した一因と考えられます。日本のガイドラインでは第一選択薬が明記されていないので、新たに診断された2型糖尿病患者から処方されるケースも少なくありません。

 それに対し、欧米のガイドラインではメトホルミンが第一選択薬に位置付けられているため、DPP-4阻害薬は第二選択薬として、相当な頻度で使われるようになってきました。欧米人においては、HbA1cがだいたい1%弱低下するので、経口薬としては平均的な降下作用を持っているといえます。日本だけでなく、欧米においても広く使われるようになっており、世界中でメトホルミンとともに経口血糖降下薬の中心的な存在になりつつあります。

膵炎や膵癌のリスク増加は否定的

 DPP-4阻害薬の処方頻度が増加している理由として、良好な血糖降下作用と副作用の少なさが挙げられます。一方、SU薬は血糖降下作用に優れていますが、どうしても低血糖のリスクが伴います。ACCORDやVADTという2つの臨床試験では、強化療法群の方が優れていたとの結果は得られませんでした。特にACCORDでは強化療法群で総死亡が多かったこともあり、重篤な低血糖に対する危惧が世界的に高まりました。それが、高用量のSU薬を使うケースが減ってきている背景にあると思われます。

 また、メトホルミンは副作用が少ないのですが、腎機能障害があると使いにくい薬剤です。頻度は非常に低いものの、乳酸アシドーシスを起こすと致死率が高いので、一部の医師は処方を慎重に行っているようです。

 DPP-4阻害薬は1〜5%の頻度で何らかの消化器症状が出ますが、現時点では目立った重篤な副作用がほとんどなく、大きな問題となるような副作用もこれまで報告されていません。

 昨年、インクレチン関連薬を服用していると膵癌が増える可能性を示唆した論文が発表され、世界的に話題を呼びました。しかし、データの再解析を行ったところ、膵炎や膵癌のリスクがあることを支持するような結果は得られませんでした。そこで、米国糖尿病学会(ADA)、欧州糖尿病学会(EASD)、国際糖尿病連合(IDF)は合同で、現在の知見からは添付文書の改訂は不要との声明を発表しています。

 また、昨年の欧州心臓病学会(ESC)とEASDで、SAVOR-TIMI 53とEXAMINEという大規模臨床試験の結果が発表されました。いずれも、DPP-4阻害薬群で膵炎や膵癌は増えておらず、膵炎を起こした患者でも服薬を続けていて自然に治癒していた例も報告されており、現時点では膵炎や膵癌のリスクを増加させるという知見は得られていません。ただし、追跡期間が中央値で2年程度でしたので、長期の追跡に基づくデータが求められています。現在、この2つ以外にも複数の試験が実施されているので、結果が待たれています。