このように治療法がいまだ確立していないため、心不全診療に携わっている臨床医はTOPCAT試験に注目していました。HFpEFは様々な原因の患者からなる疾患集団なので、一部の患者にはACE阻害薬やβ遮断薬が効果を示しても、どのパターンの患者にも有効性を示すのはかなり難しいのかもしれません。その意味ではチャレンジングな臨床試験だったと考えられます。また、患者背景を見ると、TOPCAT試験に登録された患者は心筋梗塞既往例がおおよそ4分の1で、高血圧合併例が9割を超え、女性比率が半分強というように、リアルワールドのHFpEF患者像に近いのではないでしょうか。

従来通りカリウムやクレアチンのチェックは必要

 今回、1次エンドポイントは心血管死、心不全増悪による入院などからなる複合エンドポイントとされていますが、過去の臨床試験でもだいたい死亡と入院の複合エンドポイントです。これは心不全患者を対象とした臨床試験では一般的だと認識しています。もちろん、死亡のようなハードエンドポイントとは異なり、入院の場合、いくら基準を設けても患者が拒否すれば入院させられないなど限界が存在します。

 その一方、心不全患者においては入院すれば病態が悪化するだけでなく、QOLも低下するわけですから、入院を減らすことには意義があるでしょう。ですから、そうした限界を念頭に置いた上で結果を解釈すればよいと思います。

 有害事象に関して、両群に差が見られたのはまずカリウムです。5.5mmol/L以上の高カリウム血症がスピロノラクトン群で有意に多かったのに対し、3.5mmol/L未満の低カリウム血症がプラセボ群で有意に多かったと報告されています。また、クレアチニンは正常上限値の2倍以上に上昇した患者がスピロノラクトン群で有意に多かったものの、危険レベルと定義されていた3.0mg/dL(265μg/L)を超える症例の頻度は、両群間で有意差は認められませんでした。

 当然、スピロノラクトンを投与する際にはカリウムとクレアチニンに注意しなければならないことになりますが、これは以前から分かっていたことで、新たに判明した知見ではありません。また、リスクの程度が極めて高いというわけでもありません。3カ月に1回程度チェックすれば、通常は問題ないでしょう。

 さて、この試験は国際共同試験でしたが、地域別に1次エンドポイントを見た結果は事後(post-hoc)解析ながら興味深いものでした。米国、カナダ、アルゼンチン、ブラジルというグループと、ロシア、グルジアというグループの2つに分けたところ、両グループのイベント発生に大きな差があっただけでなく、前者のグループでは1次エンドポイントに有意差が認められたのです(図1)。日本の1次エンドポイントの発生率は米国のグループに近いと考えられるので、期待感を抱かせる結果です。

図1●地域別に見た1次エンドポイントの推移(事後解析)

 TOPCAT試験での薬剤処方率を見ると、ACE阻害薬あるいはARBは8割以上、β遮断薬は8割弱、利尿薬は8割以上でした。こうした条件下でも、スピロノラクトンを投与すると心不全増悪による入院が抑制されるという結果が出たことを踏まえると、HFpEFと診断できれば、早期からのスピロノラクトン投与は有用性が期待できます。腎機能に留意しながら、これまで以上に積極的な使用を検討すべきです。また、同薬には利尿作用も期待できるので、ループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬よりも優先的に処方して差し支えないでしょう。