明らかに心不全症状を呈するものの左室駆出率(LVEF)が保持された心不全(heart failure with preserved ejection fraction:HFpEF)に対する有効な治療法はいまだに確立されておらず、予後も決して良くはない。このほど、HFpEFにおける抗アルドステロン薬スピロノラクトンの効果を調べたTOPCAT試験の結果が発表された。心不全診療のエキスパートである兵庫医科大学の増山理氏に、この試験結果をどう理解し、実臨床に活用すればよいかを解説してもらった。


 TOPCAT試験は米国National Heart, Lung, and Blood Institute(NHLBI)が資金提供して実施された臨床試験で、HFpEFへのスピロノラクトン投与の有効性を検討しました。登録患者3445人を平均3.3年間追跡したところ、1次エンドポイント(心血管死、心不全増悪による入院、心停止からの蘇生からなる複合エンドポイント)はスピロノラクトン群の方が少なかったものの、有意差は認められませんでした。しかし、項目別に見ると、心不全増悪による入院は有意に低下しました(参考記事「HFpEFへのスピロノラクトン、心血管死は有意差なしも心不全増悪による入院は有意に減少」)。今回の結果から導き出されるメッセージは、「HFpEFだと分かったら、スピロノラクトンをなるべく早い段階から投与することを考えるべきだ」と理解しています。

有用性が示された治療法はなくチャレンジングな臨床試験

 心不全について簡単におさらいすると、昔は心臓の動きが悪い、すなわちLVEFが低いことが必須条件だと考えられていました。これが、LVEFが低下した収縮不全型心不全(heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF)で、拡張型心筋症や梗塞サイズの大きな心筋梗塞といったように、原因が比較的明らかな患者が多く見られます。

 ところが、LVEFがそんなに低下していなくても、心不全症状を訴える人がいることが明らかになり、そうした患者をHFpEFと呼んで区別するようになりました。HFrEFと異なり、原因疾患がそれほど明確でない患者が多く、特徴として、高齢で女性や高血圧合併例が多いことなどが挙げられます。

 HFrEFでは治療効果が示された薬剤があります。日本循環器学会の「慢性心不全治療ガイドライン」に記されているようにACE阻害薬とβ遮断薬で、日本でもかなり処方されるようになってきました。一方、HFpEFでは有用性が明確に認められた薬剤はありません。そのため、HFrEFに準じた治療を行っているケースが多いのが実情です。

 HFpEFを対象に実施された過去の主な臨床試験を見てみると、いずれも芳しい結果が得られていません。例えば、登録患者数が850人でACE阻害薬を用いた「PEP-CHF」では、1次エンドポイントは全死亡と心不全増悪による入院の複合エンドポイントに設定されましたが、追跡期間2.1年(中央値)で見ると差がついていません。2次エンドポイントの1つだった心不全による入院も有意差はありませんでした。

 また、約3000人を対象にARBの有用性を検討した「CHARM-Preserved」では、1次エンドポイントは心血管死と心不全による入院という複合エンドポイントで、有意な差は認められませんでした。心不全による入院で見ても有意差はありませんでしたが、様々な項目で調整すると有意差が認められました。さらに、別のARBを用いて約4100人を登録して行われた「I-Preserve」では、1次エンドポイントが全死亡と心血管イベントによる入院という複合エンドポイントでしたが、有意差は確認できませんでした。入院に限定しても、やはり認められませんでした。

 「CHARM-Preserved」で登録された患者は、心筋梗塞既往例が多い、男性が多い、年齢がやや若い——というように、リアルワールドのHFpEFの患者層とは少し異なっているという印象がありました。それに対し、「I-Preserve」の患者は普段診察している患者層に近いものでした。従って、リアルワールドのHFpEF患者に効くとはっきり明らかになった薬剤は、ないといえるでしょう。