「降圧治療において利尿薬は歴史が長く、最もエビデンスがあるのではないか」と琉球大学臨床薬理学講座教授の植田真一郎氏は語る。しかし、利尿薬の使用率は決して高いとは言えない。1990年代の報告によると、日本における利尿薬の使用率は5〜10%にとどまるという。

 この背景には、利尿薬投与は糖尿病発症リスクを増加させるのではないかという懸念がある。過去のメタ解析では、低用量から中用量の利尿薬を投与すると、糖尿病発症リスクが20〜50%増加したとされている。

 ただ、これまでのメタ解析について植田氏は、「ここから利尿薬が糖尿病発症リスクを増加させるという結論は導き出せない」と指摘する。

 まず、解析の基になった試験は糖尿病の新規発症率を主要評価項目に設定していないため、単純に比較することはできない。また、利尿薬の併用薬として選択されることの多かったβ遮断薬には糖代謝低下作用があり、糖尿病発症に影響している可能性が考えられる。さらに、利尿薬の投与量を低用量に設定した試験が少ない。

 そこで植田氏らは、「低用量の利尿薬を適切に投与すれば、2型糖尿病新規発症率を増加させない」という仮説を立て、無作為化オープン比較試験「DIME」を実施した。そして、低用量利尿薬で降圧治療を行った群の2型糖尿病新規発症率は、利尿薬を投与せずに降圧治療を行った群と比べて差がなかったことを、今年の日本高血圧学会で発表した。

利尿薬は厳密に低用量に設定
 試験は当初、厚生労働科学研究として開始されたが、その後に日本高血圧学会の共催研究として継続された。植田氏は、「この試験の重要なポイントは、利尿薬そのものの糖代謝への影響を見る試験ではないということ。利尿薬を厳密に低用量に設定し、その上で実臨床と同様にその他の降圧薬も使用可能とし、オープン試験にすることで、リアルワールドの降圧治療を反映した」と解説する。

 試験は、2004年1月〜2012年6月に国内105施設で行われた。対象は、30〜79歳の、2型糖尿病歴や痛風歴のない本態性高血圧患者で、降圧治療を受けたことのない場合は血圧値が150/90mmHg超、降圧治療中の場合は140/90mmHg超の患者とした。すでに利尿薬で治療している患者は除外した。

 4年間の糖尿病新規発症率を5.5%、追跡期間中の脱落率を20%と仮定した場合、検出力90%を得るのに必要な患者数は2400人、検出力80%の場合は1800人と算出された。実際には、1171人が登録され、1130人を利尿薬群(544人)と非利尿薬群(586人)にランダムに割り付けた。

 目標血圧値は140/90mmHg未満に設定。利尿薬群では、ヒドロクロロチアジド12.5mgもしくは相当量(トリクロルメチアジド1mgまたはインダパミド1mg)を投与し、必要に応じてその他の降圧薬を使用した。非利尿薬群は、利尿薬以外の降圧薬で目標血圧値を目指した。

 患者背景は、両群に差はなかった。年齢は63歳、空腹時血糖値は99〜100mg/dL、HbA1c(JDS値)は5.3%、推算糸球体濾過量(eGFR)は73.7〜74.0mL/min/1.73m2。収縮期血圧は154mmHg、拡張期血圧は88mmHg。降圧治療中の患者は85〜87%を占めた。