永井 厚志氏
東京女子医科大学統括病院長
(撮影:清水 盟貴)

 今回、4年ぶりに「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン」を改訂しました(詳細は「COPDのガイドラインが改訂、安定期の第一選択薬はLAMAとLABAに」参照)。高齢化が進む日本ではCOPD患者が増加し、2010年以降は死因の第9位です。12年に公表された第2次健康日本21では、主要疾患にCOPDが加えられ、癌、糖尿病、循環器疾患に並んで早急な対策が必要であることが明示されました。一方で、COPDの認知率は他疾患に比べて決して高いとはいえません。こうした状況を踏まえた上で、今回の改訂作業を行いました。

 その際、特に気をつけたのは、COPD患者をどのように診療したらよいのかを示す手順書となるようにした点です。海外のガイドラインを単になぞったものにならないよう十分に留意し、日本人のエビデンスを重視して作成しました。

 COPD患者の早期発見とともに見逃しがないようにしてほしいという考えから、疾患定義を見直し、自覚症状に乏しいケースがあることを明記しました。一般に、疾患定義はあいまいな表現を排除して病気の本質だけを示すものです。しかし、日本においては疾患認知率が低いことに加え、患者が症状を自覚しにくく、呼吸機能の低下が加齢変化によるものだと誤解しやすいこともあり、早期発見が難しいのです。そこで、患者を早期に見つけ出し、幅広くCOPD患者をケアしてもらいたいという狙いから、あえて今回のような定義に変更しました。

 増悪の定義も同様に、早期からの対応を求めるべく変更しています。増悪前に出現する症状として、胸部不快感・違和感の出現あるいは増強が見られることを追加しました。増悪の前段階で出現するこれらの症状に十分に注意し、増悪を念頭に置いて治療に当たってほしいからです。ひとたび増悪を起こすと、QOLや呼吸機能が低下するほか、増悪を起こしやすくなり、生命予後がより悪くなります。そのため、増悪を起こさないことがとても重要になります。

 呼吸リハビリテーションについては、運動耐容能だけでなく、身体活動性を毎日維持させることが重要であるという概念を新たに盛り込みました。

LABAも第一選択薬に
 薬物療法については、安定期COPD患者の管理の考え方を示した図の他に、アルゴリズムを新たに作成しました。このアルゴリズムは具体的な診療方針を示したもので、薬物療法と非薬物療法のそれぞれについて分かりやすく提示しています。

 主な改訂点として、まず安定期の患者への第一選択薬として、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)を同等に推奨したことが挙げられます。これまではLAMAを第一選択薬としていて、次の選択肢としてLABAを記載していましたが、この数年間に上市された新しいLABAの有用性を示す複数のエビデンスが発表されたことを踏まえました。

 LAMAとLABAのどちらを先に投与したらよいのかについては、薬剤に対する治療反応性を予測する因子が明らかになっていないため、明確に示せていません。当面は、まずどちらか一方を投与し、8〜12週間後に自覚症状を中心に治療効果を判定し、その後の治療方針を決めるとよいでしょう。

 加えて、合併疾患を考慮して薬剤を選択しなければなりません。例えば、LAMAは閉塞隅角緑内障には禁忌で、前立腺肥大症だと排尿困難症状が悪化する恐れがあります。また、LABAは循環器系疾患のある人に注意が必要です。

 LAMAもしくはLABAの単剤投与で症状が改善しなかった場合は、両薬剤の併用投与を考慮します。しかし、併用投与に関するエビデンスは、患者数がまだ少ないのが現状です。ですから、吸入ステロイド(ICS)をLAMAまたはLABAに上乗せするという選択もありとしました。

LAMAとLABAの合剤に期待
 近い将来に発売される可能性が高い新薬にも言及しました。現在、LAMAとLABAを併用する場合はそれぞれデバイスを使用しなければなりません。しかし、薬剤ごとにデバイスの使用方法が異なる他、1日の吸入回数が異なる場合もあり、誤使用を防ぐためには患者指導に細心の注意を払う必要があります。今後、合剤が登場すれば、こうした問題の解消が大いに期待できます。

 ガイドラインの改訂は、これまで通り3、4年おきに行う予定ですが、その間に発売された新薬の位置付けなどについては、必要に応じて年1回をめどにホームページなどに掲載していきたいと考えています。

 COPDは患者一人ひとりの病態が異なり、全身性疾患として捉えることが求められています。疾患を早期に発見し、ガイドラインをベースに総合的に診断した上で個々の患者に適した医療を提供してほしいと願っています。