近畿大学医学部堺病院副院長/整形外科教授の菊池啓氏

 間歇跛行を呈する患者が最初に受診するのは整形外科が最も多い。しかし、間歇跛行は腰部脊柱管狭窄症LCS)と末梢動脈疾患PAD)にみられる症状で、両疾患の治療法は異なっている。したがって、適切な治療を行うためには鑑別が求められる。そこで、LCSとPADの鑑別診断のポイントと合併例に対する治療の実際などについて、近畿大学医学部堺病院副院長/整形外科教授の菊池啓氏(写真)にうかがった(日経メディカル別冊)。

受診患者の約4分の1はPADの可能性が高い

 当院の整形外科を受診する患者さんは50歳以上の高齢者が多く、4年前と比較すると、70歳代の方が倍近く増えています。また、こうした患者さんでは、合併症として高血圧、脂質代謝異常症、糖尿病などの生活習慣病、さらに脳梗塞やPADを有する方が多くなっています。

 患者さんの訴える症状として最も多いのは痛みで、次いで、しびれ感、だるさ、冷感などです。手足の冷感は受診患者さんの約24%にみられ、その中には糖尿病性の方も含まれていると思われますが、PADが関与している方が非常に多いと思われます。つまり、当科を受診する方の約4分の1はPADの可能性があるのです(図1)。

図1 当科を受診した患者の症状の部位・程度

 症状の部位としては、腰と下肢がほとんどを占め、腰の症状を訴えられる方の約23%がLCS、約21%は腰痛症、約16%は変形性腰椎症で、下肢症状を主訴とする方の約7%はPADでした(図2)。

図2 当科を受診した患者の病名(種類・部位)

 一般に、整形外科を受診した間歇跛行の患者さんの約75%はLCS、約25%がPADあるいはPAD合併例とされています。すなわち、3:1の比率だと言われていますが、当科でもほぼ同様の数字でした。

 ところが、多くの整形外科医は下肢症状を訴える患者さんをみると、まずLCSを疑います。約75%の患者さんはそれでもよいのですが、残り約25%の患者さんはPADあるいはPAD合併例ですから、LCSの治療だけでは症状の改善は得られません。

 また、間歇跛行患者さんの初診科をみると、約85%は整形外科と言われていますので、われわれにとって、PADを見逃さないことは非常に重要だと言えます。

間歇跛行患者に漫然とプロスタグランジン製剤を投与することは避けるべき

 同様に間歇跛行の症状を示しても、LCSは神経の疾患であり、PADは血管の疾患です。当然、両疾患では治療法が異なりますので、鑑別診断が重要となります。鑑別のポイントは、姿勢誘発性の有無、症状、部位、麻痺、拍動などで、一般にPADでは、姿勢誘発性がなく、症状は強い痛み、部位は片側足、麻痺はみられず、拍動は低下している、と言われています。また、患者さんの靴下を脱がせて足を視診することも非常に重要と思われます。

 PADの診療ガイドラインであるTASCIIでは、ABIが0.90以下の場合はPADと診断し、抗血小板薬であるシロスタゾールの投与を推奨しています。しかし、整形外科を受診する間歇跛行の患者さんのほとんどは、ABIが0.90以上の軽症者です。一方、シロスタゾールは下肢の皮膚温度と皮膚血流量を有意に増やすことが明らかになっていますので、たとえABIが0.90以上でも下肢の冷感やしびれ感などを訴える患者さんで、特に動脈硬化性疾患を合併している方には有効と思われます。さらに、シロスタゾールの有する血流改善作用は、LCSにも有効ではないかと考えられます。

 TASCIIは血管外科領域や循環器領域の先生方にはよく知られていますが、多くの整形外科の先生方にはあまり知られていないのではないかと思います。整形外科の先生方の中には、プロスタグランジン製剤とシロスタゾールには同様の作用があると考え、間歇跛行を訴える患者さんに漫然とプロスタグランジン製剤を投与している方もおられます。しかし、既に指摘したように、間歇跛行を主訴とする患者さんの中には、PADの患者さんやPAD合併LCSの患者さんが含まれている可能性が非常に高く、PADが進行した重症虚血肢は極めて予後不良の疾患です。したがって、症状の改善がみられないにもかかわらず、漫然とプロスタグランジン製剤を処方することだけは、避けなくてはいけません。

PAD合併LCS症例にはシロスタゾールとプロスタグランジン製剤の併用投与

 そこで、われわれはPADならびにPAD合併LCS症例に対するシロスタゾールの臨床効果を検討しています。

 対象は、当院の整形外科を受診し、PADならびにLCSに対してプロスタグランジン製剤であるリマプロストアルファデクスが既に投与されているが、しびれ感、冷感、間歇跛行といった虚血症状の改善が不十分な患者さんで、シロスタゾールを追加投与して、その有効性を調べています。

 現在、63例を6カ月観察中(近日中に終了する予定)ですが、2008年秋の途中経過をみると、34例中13例(67〜88歳、男性3例、女性10例、各々シロスタゾール100〜200mg投与で維持)で虚血症状の改善が認められています。

 また、不変は14例、投与中止は5例、脱落は2例で、シロスタゾールの投与を中止した理由は、頭痛が3例、皮疹1例、下痢1例でした。

 したがって、LCSと診断した患者さんにプロスタグランジン製剤を投与しても改善がみられない場合は、PAD合併例と考えてシロスタゾールの併用投与が有効と思われます。実際、シロスタゾールの併用によって、「冷感やしびれ感がなくなった」「楽に歩けるようになった」という患者さんを経験しています。