宮崎県立延岡病院心臓血管センター心臓血管外科部長の中村都英氏

 高齢化社会や生活習慣の欧米化を背景に、わが国でも末梢動脈疾患PAD)が増加しつつあり、その診断・治療は大きな臨床の課題となっている。そこで、宮崎県立延岡病院心臓血管センター心臓血管外科部長の中村都英氏(写真)に、PADの動向や診断・治療の現状について解説をお願いした(日経メディカル別冊)。

―― 近年、PADの患者さんが増えているといわれますが、こちらの病院では、どのような状況でしょうか。

中村 心臓血管外科外来の初診患者の4割ぐらいにPADがみられます。他施設から紹介されてくる患者さんが多く、日向市から延岡市までの県北地域で心臓血管外科があるのは当院だけですので、PADの疑われる多くの患者さんはここに集まります。紹介患者さんのうち、PADと診断されるのは約6割で、背景としては、高齢で糖尿病などを合併している方が多くなっています。PADの患者さんの多くは心臓血管外科に紹介されてきますが、院内では皮膚科と整形外科からの紹介が多く、皮膚科からの患者さんは、ほとんどが重症下肢虚血です。

―― 初診時の診断は、どのようにされているのでしょうか。

中村 心臓血管外科の外来患者の約半数は、心臓大血管の疾患がある患者さんです。しかし、初診時には心臓大血管の検査だけでなく、四肢の血管の触診、腹部の触診として拍動性腫瘤の有無、血管雑音の有無などを、すべての患者さんで診るようにしています。そして、必ずABIを測定します。間歇性跛行を主訴として、ABIが0.9以下であった場合はPADが強く疑われますので、大腿動脈が触れない場合はCT angiography(CTA)を行います。また、大腿動脈が触れる場合は、禁煙、高血圧、高脂血症、糖尿病などリスクファクターがあれば、その治療および管理を3カ月間行って、それで症状が改善しなければCTAを行います。

―― 次に、PADに対するバイパス術や血管内治療の実際について、おうかがいします。

中村 心臓血管外科全体で、年間に約220例の手術治療を行っています。その内訳は、約半数の110例が人工心肺を用いた心臓大血管手術で、残りの110例が人工心肺を用いない血管外科手術です。血管外科手術のうちの約30例がPADに対するバイパス術となっています。

 PADの血管内治療は、2008年までは放射線科と循環器内科で、それぞれ年間約10例ずつ、合計で年間約20例に行っていました。循環器内科では、冠動脈の血管内治療を年間約450例に行っており、冠動脈造影のときに末梢動脈をみて、PADの治療を行っています。

 以前は、心臓血管外科でPADと診断された患者さんの血管内治療は、放射線科で行われていたのですが、2009年からは心臓血管外科でも施行するようになり、3カ月間で4例に行っています。

 術前の治療方針については、各診療科が独自に決め、ディスカッションは行っていませんが、循環器内科とは術後に症例を報告し合うことになっており、毎週1回の検討会を開いています。現状では、PADに対する血管内治療は循環器内科、放射線科、心臓血管外科のそれぞれで行われていますので、PAD治療における院内のチームワークを構築することが、今後の課題です。

―― 心臓血管外科では、PADの血管内治療の適応に関しては、どのような方針をとっているのでしょうか。

中村 心臓血管外科医には、心臓大血管を主にしている医師と末梢血管外科の医師がいます。われわれは、心臓大血管を主にして、末梢血管もカバーするという立場でやっていますので、PADの血管内治療の適応に関しては、当科独自の方針ではなく国際的な診療ガイドラインであるTASCIIを重視するという姿勢を心がけています。

 TASCIIでは、腸骨動脈は基本的には血管内治療が推奨されています。また、SFA(浅大腿動脈)のショートセグメントはステント治療の成績がよいとされています。ただ現状では、良質な自家静脈が得られるのであれば、われわれはF‐Pバイパス(大腿動脈-末梢動脈バイパス)を行う場合もあります。今後はTASCIIに則ってステント治療の適応範囲を広げていく考えですが、ロングセグメントの場合は、やはりバイパスで治療すべきだと考えています。

 また、ステント治療とバイパス術を併用するハイブリッド治療を行う場合もあります(図1)。例えば、流入路(inflow)にはステント留置を行って、同時にF‐Pバイパスを行うのが、1つの多いパターンです。非常に高齢の患者さんで、一度に行うことが不都合な場合は2期に分けて治療しますが、若い患者さんで、病変が流入路と流出路(outflow)にある場合は同時に行います。

図1 ステント治療とバイパス術のハイブリッド治療を行った症例

―― 保存的に様子をみる場合の薬物療法は、どのようにされているのでしょうか。

中村 第1選択薬はシロスタゾールです。生活指導でリスクファクターを除いた上で、軽度の患者さんであれば、シロスタゾールだけで治療します。具体的には、喫煙者が非常に多いので、まず禁煙指導を行い、さらに高脂血症、高血圧、糖尿病の管理を行います。それでも症状の改善しない場合は血管造影を実施して、手術適応がないと判断された場合にシロスタゾールを投与します。

 間歇性跛行の場合、手術適応に関しては本人の希望も重視しています。ステント治療が可能であれば積極的に勧めていますが、SFAだけの閉塞で、バイパス術を行えば改善すると見込まれても、そこまで症状も強くなく、生活に支障がない場合は、シロスタゾールの投与によって治療します。

―― 周術期の薬物療法に関しては、どうでしょうか。

中村 ステント治療後はシロスタゾールにPG製剤などを併用し2剤を使います。最終的に1剤にする場合は、シロスタゾールを継続しており、その理由は、シロスタゾールには内膜肥厚を抑制する、つまり再狭窄を抑制する、という報告もありますので、抗血小板作用以外のそういった特徴にも期待して使用しています。また、バイパス術で人工血管を用いた場合は、3カ月間だけワルファリンも加えています。

―― 今後、PADの診療をさらに充実させていく上での課題、抱負をお聞かせいただけますでしょうか。

中村 PADは患者数の増加が予想されており、今後、高齢化に伴って当院でも重症下肢虚血が増えてくるようであれば、心臓血管外科だけでなく、皮膚科、形成外科、循環器内科などが一緒になったチーム医療が不可欠だと考えています。

 特に多発動脈病変の場合は、重症下肢虚血が多いので、潰瘍の治療に長い時間と大変な労力が必要とされます。潰瘍を何カ月もかけて治療し、切断を可能な限り小切断にする、できれば切断を回避する方向に持っていくには、チーム医療としてフットケアチームを立ち上げて、集学的な治療で対応していくことが必要だと思います。