LDL-C低下療法が冠動脈疾患の1次、2次予防に有用であることについては、欧米でエビデンスが確立している。しかし日本人は欧米人に比べて心筋梗塞の発症が3分の1程度と少なく、一方で脳卒中は約2倍と多い。これだけ疾病構造に違いがあるのに欧米のエビデンスを日本人に当てはめられるのか――このような懐疑論は1990年代の日本の臨床現場に根強くあった。脂質異常がどれだけ日本人の冠動脈疾患発症に影響しているのか、LDL-C低下療法がどれだけ心筋梗塞を抑制するのかについて、強力な証明が求められていた。

 この疑問に対し、1次予防についての回答を示したのが、1993年に開始されたMEGAスタディ(Management of elevated cholesterol in the primary prevention group of adult Japanese study)である。

 対象は冠動脈疾患既往のない軽〜中等度(総コレステロール値220〜270mg/dL)の高脂血症患者約7832例。食事療法単独群(食事療法群)と食事療法+プラバスタチン(10〜20mg/日)併用群(スタチン群)に1:1で割り付けて平均5.3年追跡した結果、スタチン併用によって冠動脈疾患が33%減少した。低用量スタチンによる1次予防は日本人に有益というエビデンスを示したと言える。

 循環器領域における日本発の大規模無作為化比較試験として実施されたMEGAスタディには、いくつか特色がある。まず、日本の一般診療の枠内で行う試験ということで、二重盲検法ではなくPROBE法が採用された。被験者や担当医にはオープンラベルだが、試験を運営する委員会や分析者には被験者がどの群に割り付けられたのかを知らせないことで評価を盲検化する手法だ。欧米の二重盲検化臨床試験と単純比較するのは難しくなるが、プラセボ投与がない分、対象患者への倫理性は十分保たれると考えられた。

 主要評価項目を複合エンドポイント(致死性および非致死性心筋梗塞、狭心症、心臓死および突然死、血行再建術を含む冠動脈疾患の初発)としたのも大きな特徴だった。前向き試験では単純明快なエンドポイントを1つだけ定めたほうがよいとされる。しかしそれでは有意な結果を得るのに十分なイベント数が不足することがあるため、近年は「死亡と疾患発症、治療の発生」というように、重要度の異なる結果を複数並べる試験が増えている。エンドポイントに達する患者数が増えるほど、介入効果を大きく見せることができるからだ。

 MEGAスタディは複合エンドポイントの結果の内訳を示すことで質を保証し得たが、数ある臨床試験の中には結果の内訳を示さないものも存在する。このため厳しい評価にも耐えなければならなかった。

 実際、当初5年をめどとされたMEGAスタディのフォローアップは、イベント数が少なかったことからモニタリング委員会の指摘を受け、同意が得られた対象のみ2004年まで延長された。ただし、再同意が得られた症例が少なかったこと、治療コンプライアンスが低下したことなどから、データ解析は追跡終了時のほか当初予定の5年時点でも行われた。

 登録者の7割(計5356例)を女性が占めたのもMEGAスタディの特徴だった。もともと男性は40〜70歳、女性は閉経後から70歳と、女性の年齢幅を狭く設定していたが、日本における疾病構造や性差が反映されたためか、女性参加者が多くなった。

図1 主要評価項目(冠動脈疾患)の累積発生率

 試験の結果、主要評価項目である冠動脈疾患の初発率はスタチン群で3.3%と、食事療法群の5.0%に比べ、33%有意に少なかった(P=0.01、図1)。特に心筋梗塞の発生率はスタチン群で0.9%、食事療法群で1.6%とスタチン投与群では48%有意に抑制されていた(P=0.03)。血行再建術の実施はスタチン群で2.0%、食事療法群で3.2%と、スタチン群では40%有意に少なかった(P=0.01)。突然死と狭心症の発生には2群間で有意差はなかった。

図2 副次評価項目(冠動脈疾患+脳梗塞)

 日本人対象ということで、MEGAの結果の中でも注目された脳卒中については副次評価項目(図2〜図4)で評価されたが、発生率はスタチン群2.5%、食事療法群3.0%と、スタチン投与による有意な抑制は認められなかった(P=0.33)。脳梗塞+一過性脳虚血発作(TIA)にも両群で差はなく(P=0.23)、総死亡率の抑制も有意な差は見られなかった(P=0.055)。

 ただし、冠動脈疾患+脳梗塞の発生はスタチン投与によって30%、すべての心血管イベントの発生は26%、それぞれ有意に少なかった。年齢、性別、登録時の脂質、糖尿病、高血圧症、肥満、喫煙の有無といったサブグループで解析してもこの傾向は同じだった。

図3 副次評価項目(脳卒中)

 一方、追跡5年時点のデータで解析した結果は、追跡終了時のものとは若干異なった。冠動脈疾患、および冠動脈疾患+脳梗塞の抑制効果は同じだったが、脳卒中についても35%の有意な抑制効果が認められた(P=0.03)。総死亡も32%減と有意に抑制されていた(P=0.048)。

 スタチン群の脂質は試験期間を通じて食事療法群より有意に改善していたが、改善幅は総コレステロールが11%減、LDL-Cが18%減、トリグリセリドが7%減、HDL-Cが5%増と、全体として小幅にとどまった。

図4 副次評価項目(総死亡)

 脂質改善幅が小さいにもかかわらず、有意なイベント抑制効果が得られた原因はまだ明確にされていない。食事療法を併用した効果やスタチンの多面的な効果、日本人はスタチン治療に対する感受性が高いことなどが可能性として指摘されているが、今後の解明が待たれる。

 なお、MEGAで登録者の女性比率が高かったことを受け、日本医科大学教授の水野杏一氏らが2008年に報告した研究(Mizuno K et al. Circulation 2008; 117; 494-502. )によると、女性の心血管イベント発生率は男性より低いが、全体として低用量スタチン投与によるイベント抑制効果は男性と同等であり、軽度であっても脂質異常のある女性では低用量スタチンで予防を行う意義が大きいとされた。

(日経メディカル別冊編集)