動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版ではスタチンによる脳梗塞発症の予防を、最も良質なエビデンスがあり、推奨度も最高の「推奨レベル1、エビデンスレベルA」としている。この新ガイドラインの中で繰り返し強調されているのが、脂質、血圧、生活習慣などの包括的管理の重要性だ。

 スタチンによる脂質改善が脳卒中を予防し得ることを明確に裏付けたのが、2006年に主要結果が報告されたSPARCL(The Stroke Prevention by Aggressive Reduction in Cholesterol Levels)試験だ。スタチン治療の心血管イベント抑制効果については、SPARCL試験以前にも豊富なエビデンスがあったが、脳血管疾患に対するスタチンの効果を主要評価項目とした臨床試験はSPARCLに限られている。

 SPARCL試験では、脳血管疾患既往の患者に対し、アトルバスタチン1日80mg投与という強力な脂質改善療法が脳卒中の再発を抑えるかどうかを二重盲検でプラセボ群と比較した。

 主要評価項目は致死性または非致死性脳卒中、主な副次評価項目は、すべての脳卒中またはTIA、主要冠動脈イベント、主要心血管イベント、血行再建術の施行、総死亡などとされた。

 対象はLDLコレステロールが100〜190mg/dLで、心血管疾患の既往がなく、過去半年以内に脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)を起こした18歳以上の4731例で、無作為にスタチン群(2365例)とプラセボ群(2366例)に割り付けた。

 既往の脳血管イベントは、両群とも脳卒中が約7割、TIAが約3割だった。患者は試験期間中も抗血小板薬や降圧薬、抗凝固薬、試験対象ではないスタチンなどの服用を継続した。

 中央値4.9年の追跡の結果、スタチン群のLDLコレステロールは平均72.9mg/dLと、プラセボ群の128.5mg/dLに比べ大幅に低下していた。スタチン群ではプラセボ群に対し、HDLコレステロール、総コレステロール、トリグリセリドも有意な改善が得られた。

 主要評価項目である致死性および非致死性脳卒中の初回再発は、スタチン群265例(11.2%)、プラセボ群311例(13.1%)で発生した。非致死性脳卒中はスタチン群247例(10.4%)、プラセボ群280例(11.8%)、致死性脳卒中はスタチン群24例(1.0%)、プラセボ群41例(1.7%)だった(項目別例数には重複や分類不能例を含むため、初回再発数と一致しない)。

 居住地域、既往の脳血管疾患、既往イベントからの経過日数、性、ベースラインの年齢で調整した結果、スタチン群はプラセボ群に対し、脳卒中の初回再発リスクが16%有意に少なかった(HR:0.84、P=0.03、図1)。

 なお、致死性脳卒中については、スタチン群が有意に少なかったものの(調整後HR:0.57、P=0.03)、非致死性脳卒中については、有意差は認められなかった(調整後HR:0.87、P=0.11)。

図1 致死性・非致死性脳卒中の累積再発率(主要評価項目)

 副次評価項目では、スタチン群がプラセボ群に対し、(1)すべての脳卒中またはTIA発生リスクが23%、(2)主要冠イベントリスクが同35%、(3)主要心血管イベントリスクが同20%、(4)急性冠イベントリスクが同35%、(5)すべての冠イベントリスクが同42%、(6)血行再建術リスクが同45%、(7)すべての心血管イベントリスクが26%、それぞれ有意に少なかった(いずれも調整後)。総死亡率は2群間で差が見られなかった。

脳出血リスク増加には脳出血既往や血圧管理の不良が関与
 議論を呼んだのはポストホック解析の部分だ。追跡期間中に発生した脳卒中を虚血性、出血性、その他の3タイプに分けて発生リスクを比較したところ、虚血性脳卒中はスタチン群218例、プラセボ群274例で、スタチン群では22%(調整後HR:0.78)有意にリスクが小さかったのに対し、出血性脳卒中はスタチン群55例、プラセボ群33例と、スタチン群で66%(調整後HR:1.66)有意に大きかった。その他の脳卒中はスタチン群7例、プラセボ群12例と、有意ではないがスタチン群で少ない傾向にあった。

 このポストホック解析の結果に1つの回答を示したのは、2008年に報告されたSPARCL試験の2次解析だった。試験開始時の患者背景を詳細に検討した結果、スタチン治療中の出血性脳卒中リスクには、出血性脳卒中の既往(HR:5.65)、男性(HR:1.79)、加齢(10歳増加につきHR:1.42)といった因子が関与していることが明らかにされた。

 同じ報告の多変量解析では、治療時の血圧上昇が出血性脳卒中リスクと関連し、特にステージ2の高血圧(収縮期血圧160mmHg以上または拡張期血圧100mmHg以上)はリスクを顕著に高めることが確認された(HR:6.19)。

 この解析では、ベースライン時や治療中のLDLコレステロール値は出血性リスクとは関連しないことも確認しており、出血性脳卒中の抑制には、脂質以外の因子の管理が重要であることを指摘する結論となっている。

 脳血管疾患の多い日本人にとって、脳卒中を主要評価項目としたSPARCL試験で、スタチン投与による脳卒中再発の有意な抑制が確かめられた意義は大きい。ポストホック解析により、スタチン群で脳出血が多いことが示されたが、出血を起こした患者では脳出血の既往や血圧管理が不十分といったリスクが関連していることが明らかになったことで、包括管理の重要性を改めて示唆することになった。

(日経メディカル別冊編集部)