心血管リスク因子を持つ患者の動脈硬化予防には、血圧、脂質、血糖を含めた管理――包括的治療を行う必要がある。今回のガイドライン改訂で特に強調されたその概念を、最初に裏付けた臨床試験として知られるのが、北欧と英国・アイルランドで行われ、2003年に報告されたASCOT-LLA(Anglo-Scandinavian Cardiac Outcomes Trial-Lipid Lowering Arm)だ。

 ASCOT-LLAでは、複数の心血管リスク因子を持った高血圧患者に対する降圧治療を比較したASCOT試験の参加者のうち、総コレステロール(TC)値が米国の基準で正常範囲(250mg/dL以下、平均213mg/dL)と考えられる患者を、降圧薬に加えてアトルバスタチン1日10mgまたはプラセボを投与する群に割り付けて比較した。

 その結果、中間解析時点でアトルバスタチン群がプラセボ群に比べ、心血管イベント発生が36%減と大幅に低下した。試験は当初、5年間のフォローアップを実施する予定だったが、この結果を受け、平均追跡期間3.3年で早期中止された。

 ASCOT-LLA以前の研究でも、スタチンによる脂質低下療法が幅広い年齢層において心血管イベントの1次、2次予防に有効なことや、急性冠症候群を抑制することが示唆されていた。しかし、脂質低下で得られる動脈硬化抑制効果は短期間では大きくないと指摘されていた。

 一方、高血圧など複数のリスク因子を保有する患者では心血管イベントリスクが相乗的に上昇することから、脂質管理と降圧治療を同時に行うことで治療効果を高めることができないかを明らかにする必要性が指摘されていた。

 高血圧や脂質異常によって起こる心血管イベントの大半は、血圧、脂質が共に正常とみなされていた患者で起きている。そのため、降圧治療で血圧がコントロールされている患者に、高度な脂質異常がない段階からあえて少量のスタチン薬を予防的に投与することでどれほどの動脈硬化予防効果が得られるかを調べるASCOT-LLAが注目された。

 ASCOT試験の対象は、高血圧の認められる40〜79歳の男女1万9342例。このうち脂質がいわゆる正常範囲にあり、かつ次の心血管疾患リスク因子――(1)何らかの心機能異常、(2)2型糖尿病、(3)末梢血管疾患、(4)脳卒中または一過性脳虚血発作の既往、(5)男性、(6)加齢(55歳以上)、(7)微量アルブミン尿または蛋白尿、(8)喫煙、(9)HDLコレステロール(HDL-C)の低下、(10)心血管疾患の家族歴――のうち3つ以上が認められる1万305例がASCOT-LLA試験にも登録され、5168例がスタチン群に、5137例がプラセボ群に割り付けられた。登録時の患者背景は、白人(95%)と男性(81%)が多く、平均年齢63歳。上記リスク因子の保有数は平均3.7個だった。

 追跡1年時点でのアトルバスタチン群の脂質はプラセボ群に比べ、TCが50.27mg/dL(24%)減、LDLコレステロール(LDL-C)が46.40 mg/dL、(35%)減と低くなっていた。試験中止時には、TCが19%減、LDL-Cが29%減だった。アトルバスタチン群では中性脂肪もプラセボ群に比べて14%低下していた。HDL-Cは2群でほぼ同じだった。血圧は、試験期間中を通じて2群間で同等にコントロールされていた。

 主要評価項目は、非致死性心筋梗塞(無症候性を含む)および冠血管死の発生。副次評価項目は、心血管イベントおよび治療の発生、冠イベントの発生、非致死性心筋梗塞(無症候性を除く)および冠血管疾患死の発生、全死亡、心血管死、脳卒中、心不全の発生。さらに無症候性心筋梗塞や不安定狭心症、慢性安定狭心症といった個別評価項目の発生についても検討された。

 主要評価項目である非致死性心筋梗塞および冠血管疾患死の発生率は、アトルバスタチン群で1.9%(1000人・年当たり6.0)、プラセボ群で3.0%(1000人・年当たり9.4)と、アトルバスタチン投与によって36%(P=0.0005)有意に抑制されていた(図1)。

図1 アトルバスタチンによる非致死性心筋梗塞および致死性心血管疾患の抑制効果(主要評価項目)

 副次評価項目については、プラセボ群に対してアトルバスタチン群で心血管イベントおよび治療の発生が21%、冠イベントの発生が29%、無症候性を除く非致死性心筋梗塞および冠血管死の発生が38%、致死性および非致死性脳卒中の発生が27%、それぞれ有意に低下した。全死亡率、心血管死率、心不全の発生率についてはアトルバスタチン投与による有意な抑制効果は認められなかった。その他の項目の中で、慢性安定狭心症の発生がアトルバスタチン群で有意に減少していた(図2)。

図2 各評価項目におけるアトルバスタチンのイベント抑制効果(出典: Sever PS, et al. Lancet 2005; 361: 1149-1158)

 スタチン治療の効果に、糖尿病や肥満、喫煙、心機能低下の有無、性別、年齢といった背景因子による差があるかについても解析を行ったが、主要評価項目に有意な影響をもたらす因子はなかった。

 なお、女性では主要評価項目におけるスタチン治療の便益が認められなかったが、対象には女性が少なく、主要評価項目に該当するイベント発生が女性では36件と少なかったこと、試験期間が短縮されたことなどが影響していると考えられた。

 ASCOT-LLA試験では、高度な脂質異常症がなく、他のリスク因子を含めても中程度とそれほど高くない心血管リスクを有する高血圧患者に対し、アトルバスタチン10mg/日投与によるLDL-C低下が、心血管イベントリスクの大幅な減少をもたらすことを明らかにした。

 同試験はリスク因子の包括的管理という新たな概念を知らしめた。そして、心血管疾患予防に向けた治療戦略においては、個々のリスク因子だけに着目するのではなく、さまざまな因子を総合的に評価して決定すべきであるという新たなメッセージを示したと言ってよいだろう。


*LDL-Cの単位換算式:mg/dL = mmol/L × 38.67、小数点3位以下は四捨五入

(日経メディカル別冊)


[訂正]10月10日に以下のように訂正しました。
本文第2段落に、「降圧薬に代えてアトルバスタチン1日10mgまたはプラセボを」とありましたが、正しくは、「降圧薬に加えてアトルバスタチン1日10mgまたはプラセボを」でした。訂正します。