糖尿病は動脈硬化疾患の大きなリスク要因であり、欧米のメタ解析では非糖尿病患者と比較した冠動脈疾患発症リスクが約2倍。わが国の久山町研究やNIPPONDATA80では2.6〜2.8倍とさらに高リスクであることが明らかになっている。

 このため、動脈硬化疾患予防ガイドライン2012でも、糖尿病患者に対するLDLコレステロール(LDL-C)管理の重要性が強調されている。特に網膜症などの細小血管障害や喫煙の継続といった危険因子を併せ持つ場合、より厳格なLDL-C管理が推奨されるようになった。

 この改訂を支え、スタチンによる厳格なLDL-C管理の意義を証明したエビデンスの1つが、英国とアイルランドの2型糖尿病患者を対象に実施された無作為化比較試験(RCT)のCARDS(Collaborative Atorvastatin Diabetes Study)である。高リスク2型糖尿病患者のみを対象に、約4年(中央値)追跡した結果、プラセボ群に対し、アトルバスタチン投与群で主要心血管イベントが37%有意に抑制された。英国Royal Free and University College Medical SchoolのHelen M. Colhoun氏らの報告で、Lancet誌2004年8月21日号に掲載された。

 スタチン治療による糖尿病患者の動脈硬化性疾患一次予防については、CARDS以前にも、HPS(Heart Protection Study)やASCOT-LLA(Anglo-Scandinavian Cardiac Outcomes Trial-Lipid Lowering Arm)といったRCTが実施されている。HPSは、閉塞性動脈疾患既往のない糖尿病患者に対するスタチン治療が主要血管イベントを33%抑制することを、ASCOT-LLAは、冠動脈疾患既往のない高血圧合併糖尿病患者へのスタチン治療が有意ではないものの冠動脈疾患および脳卒中の発生を16%抑制することを、それぞれ報告した。

 しかしこれらのRCTは、糖尿病患者についてはサブグループ解析だったため、さらなるエビデンスを提示するために計画されたのがCARDS試験である。2型糖尿病患者を対象として、海外では比較的、低用量とされる1日10mgのアトルバスタチン投与による心血管イベントの一次予防効果を検討した。

 対象は、英国およびアイルランドの132医療機関に通院する40〜75歳の2型糖尿病患者で、心血管疾患の既往や脂質異常所見(LDL-C>160.09mg/dL、空腹時血清トリグリセライド>600.03mg/dL)がなく、かつ網膜症、微量アルブミン尿、喫煙の継続、高血圧のうち、1つ以上の危険因子を有する2838例。1997年11月から2001年6月にかけ、無作為にプラセボ群(1410例)とアトルバスタチン投与群(1428例)に割り付けた。平均年齢は62歳、男性が68%で、白人が94%を占めていた。

 主要評価項目は、以下の初発:急性冠疾患イベント(心筋梗塞、不安定狭心症、急性冠疾患死、心停止からの蘇生)、冠動脈血行再建術の実施および脳卒中。副次評価項目は総死亡とすべての急性心血管疾患イベントの発生とした。

 本試験は、フォローアップ期間中の中間報告でアトルバスタチン投与群における心血管イベントの有意な抑制が、あらかじめ設定された水準を超えたため、予定より2年早く終了とされた。

 中止までの追跡期間は3.9年(中央値)。期間中、アトルバスタチン投与群ではプラセボ群に対し、LDL-C、総コレステロール、non HDLコレステロール、トリグリセライドがいずれも有意に低下していた。HDL-Cについては、有意ではないがアトルバスタチン投与群ではわずかに上昇傾向を認めた。

 追跡期間中のアトルバスタチン投与群におけるLDL-C値の中央値は、おおむね77.34mg/dL(2.0mmol/L)だった。その75%は追跡期間を通じてLDL-C 95.51mg/dL未満を、さらにその25%は64.19mg/dL未満を維持した。

冠動脈と脳血管のイベント発生を有意に抑制
 こうしたLDL-C厳格管理の結果、アトルバスタチン投与群の主要冠動脈イベント発生は追跡期間中83例(5.8%)で、プラセボ群の127例(9.0%)に対し、37%有意に抑制されていた(P=0.001)。項目別には、急性冠疾患イベントの発生が36%、冠動脈血行再建術の実施が31%、脳卒中の発生が48%、それぞれ有意に減少した(図1、図2)。

図1 主要評価項目と副次評価項目におけるハザード比(主要評価項目は初発イベントのみ算入)

 年齢や性別による有効性については有意な差違は認められず、ベースラインの脂質の水準の違いによる治療の有効性も同等。高血圧や網膜症といった危険因子による差も確認されなかった。

 主要心血管イベントの初発発症率は、アトルバスタチン投与群で1000人・年当たり15.4、プラセボ群では1000人・年当たり24.6だった。10mg/日のアトルバスタチンを1000人の患者に4年間投与したことで、37件の主要心血管イベント発生を防ぐことができたと推計された。4年間で1件のイベントを予防するのに必要な治療数(NNT:number needed to treat)は27だった。

図2 主要心血管イベント(主要評価項目)の累積発生率

 また、再発を含めたイベント発生率はアトルバスタチン投与群で1000人・年当たり19.5、プラセボ群で1000人・年当たり31.8で、1000人の患者に10mg/日のアトルバスタチンを投与した場合、4年間で50件の初発・再発イベントを抑制できると推計された。

 一方、副次評価項目である総死亡は、プラセボ群で82例(5.8%)、アトルバスタチン投与群で61例(4.3%)に認められ、アトルバスタチン投与によって死亡リスクが27%抑制された(P=0.059)。すべての急性心血管イベントの発生はプラセボ群で189例(13.4%)、投与群で134例(9.4%)であり、アトルバスタチン投与によって32%リスクが低下した(P=0.001)。

 有害事象は重大なものを含め、プラセボ群とアトルバスタチン群に発生率の有意な差はみられなかった。横紋筋融解症の発生も報告されず、アトルバスタチンの1日10mg投与は高リスクの糖尿病患者にとって安全で、動脈硬化性疾患の有効な一次予防法になることが確認された。

CARDSの登録基準は臨床の実態に近い
 以上のようにCARDSでは、糖尿病患者に対するアトルバスタチン10mg/日の投与により、約4年間の追跡期間中、プラセボ群に対して主要評価項目の心血管イベント、脳卒中、総死亡がいずれも有意に減少した。

 CARDSは糖尿病患者のみを対象として、スタチン投与による脂質低下治療の有効性と安全性を示した。糖尿病患者において、心血管イベント発症に対するスタチンの有効性を示した先行研究としてはHPSやASCOT-LLAがあるが、いずれもサブグループ解析で糖尿病患者についての結果を得ており、CARDSはより強固なエビデンスを提供したと言える。

 Colhoun氏らによれば、2型糖尿病患者の多くは、「冠動脈疾患の既往はないが動脈硬化性疾患を起こす危険因子を1つ以上有する」というCARDSの登録基準に該当する。実際、米国のNHANES III調査では2型糖尿病患者の82%がこの登録基準に該当した。

 また、高リスク糖尿病患者において、1日10mgのアトルバスタチン投与はベースラインの脂質値にかかわらず、心血管イベントの減少に有効だった。

 これらの結果からColhoun氏らは、「CARDSの知見は日常臨床によく当てはまる」としたうえで、「リスクを有する糖尿病患者では、スタチンによってLDL-Cを積極的に低下させるべきだ」と結論した。

 なお、CARDSでは糖尿病以外のリスク因子の有無や性、年齢、ベースラインの脂質値の高低などで層別化しても、プラセボ群に対するスタチン投与群の心血管イベントリスク比はほぼ同等だった。筆者らは「このことは本試験の結果を追加リスクのない2型糖尿病患者にも拡張できる可能性を示唆している」と推察していた。


*原著ではLDL-Cはmmol/Lで表記されているが、本記事では、mg/dL=mmol/L × 38.67で換算して、mg/dLで表記した(小数点3位以下は四捨五入)。
*トリグリセライドの単位換算:mg/dL=mmol/L×88.5
*血清クレアチニン濃度の単位換算式: mg/dL=μmol/L×88.4(小数点3位以下は四捨五入)

(日経メディカル別冊編集)