スタチンによる脂質低下療法が動脈硬化性疾患を抑制することを示した無作為化比較試験(RCT)は数多い。脂質低下療法に関する主な大規模RCTを対象としたCholesterol Treatment Trialists’(CTT) collaborationによるメタ解析の結果から、スタチンによる脂質低下療法、特により低いLDL-C値を目指す積極的脂質低下療法の有効性と安全性が明らかになってきた。

 26件のRCTのデータを解析した2010年のCTTの報告では、治療の内容や有無にかかわらず、LDL-C値が1.0mmol/L(38.67mg/dL)低下するごとに主要な血管イベントは20%以上減少することが確認された。研究成果はLancet2010年11月13日号に掲載された。

 メタ解析の対象とされた試験には、ASCOT-LLA、CARDS、TNTなどの著名な国際試験に加えて、わが国の臨床試験であるMEGA Studyも含まれ、日本人を含むエビデンスとなっている。

 CTT collaboration(またはCTT collaborators)は、通常のRCTでは十分な統計的検出力を得るのが難しい冠動脈疾患死など単独のイベントに対する脂質低下療法の有効性と安全性をメタ解析で検討することを目的とする。英国Oxford大学の臨床試験サービス部門とオーストラリア保健医療研究協議会(NHMRC)臨床試験センターが中心になって1994年に設立された。

 2010年報告のメタ解析で対象としたのは、1000人以上を登録して2年以上追跡し、2009年末までに結果が報告されたRCTで、スタチンによる強化療法と標準療法を比較した5件(計3万9612人、追跡期間の中央値は加重平均で5.1年)と、スタチン投与と非投与を比較した21件(計12万9526人、追跡期間の中央値は同4.8年)のデータを用いて、主要血管イベント(冠疾患死亡または非致死的心筋梗塞、再血行再建、脳卒中)の抑制効果および安全性を検討した。

 まず、強化療法と標準療法を比較した5研究については、ベースライン時のLDL-C値の加重平均は97.84mg/dL、1年後のLDL-C低下幅は加重平均で19.72 mg/dLだった。主要血管イベントは強化療法群の4.5%、標準療法群の5.3%に発生しており、強化療法群では15%有意に発生が少なかった。主要血管イベントの内容別にみると、強化療法群では標準療法群に比べ、主要冠血管イベント(冠血管死および非致死性心筋梗塞)が13%、冠血管再血行再建術が19%、脳卒中が14%と、それぞれ有意に低下していた。

 これらのリスク減少率をLDL-C 1mmol/L(38.67mg/dL)低下当たりに換算したところ、LDL-C が1mmol/L低下するごとに主要血管イベントリスクは28%、主要冠血管イベントリスクは26%、冠血管再血行再建術リスクは34%、脳卒中リスクは26%、それぞれ有意に低下することが分かった(図1)。


投与/非投与のRCT結果は強化/標準RCTと同様の傾向
 一方、スタチン投与と非投与を比較した21研究のべースライン時のLDL-C値の加重平均は143.08mg/dL、1年後のLDL-C低下幅は同41.38mg/dLだった。主要血管イベントは投与群の2.8%、非投与群の3.6%に起きており、投与群では発生が22%有意に少なくなっていた。主要血管イベントの内容別にみると、投与群では非投与群より主要冠血管イベントリスクが27%、冠血管再血行再建リスクが25%、脳卒中リスクが15%それぞれ有意に減っていた。

 積極療法/標準療法の比較と同様、これらの相対リスク低下をLDL-C 1mmol/L低下当たりに換算すると、LDL-C が1mmol/L低下するごとに主要血管イベントリスクは21%、主要冠血管イベントリスクは24%、冠血管血行再建術リスクは24%、脳卒中リスクが15%低下しており、リスクの低下幅は異なるものの、強化療法群と標準療法群を比較した試験と、スタチン投与と非投与を比較した試験で得られる効果は同じ傾向であることが分かった。

 26試験をすべて合わせ、LDL-C 1mmol/L低下当たりの1年後の主要血管イベントリスク低下率を求めると22%になった。こうしたLDL-C低下による効果は、標準療法群やスタチン非投与群、ベースライン時のLDL-C が77.34mg/dL未満と低い群でも同様に得られていた。

 また、過去の研究で、HDL-C高値の人や腎機能低下患者ではスタチン治療の効果は低い可能性が示唆されていたため、CTTではその点も検討。HDL-C高値(50.27mg/dL超)や腎機能低下患者(eGFRが60mL/min/1.73m2未満)であっても、LDL-C 1mmol/L低下当たりの主要血管イベントリスク低下効果は変わらないことを確認した。

 26試験を合わせた全死因死亡は1万5969例で、そのうち56%が心血管を含む血管疾患により死亡していた。LDL-C 1mmol/L低下当たりの死亡リスク減少率を求めると、全死因死亡は10%、冠疾患死亡は20%、その他の心疾患による死亡は11%それぞれ有意に減少していた。脳卒中およびその他の血管疾患による死亡についてはLDL-C低下との有意な関連は認められなかった。

 一方、呼吸器疾患、外傷などの非血管疾患死や追跡期間中の癌発症については、LDL-C低下との有意な関連は認められず、LDL-C低下療法は安全であり、主要血管イベントの抑制に効果があることが確認された。

低リスク群でも脂質低下療法は有効で安全
 CTT Collaboratorsは今年に入ってから新たなメタ解析結果を公表した。これは、動脈硬化性疾患の低リスク患者群におけるスタチン治療の意義を検討したもの。前述した2010年のメタ解析で対象とした26件に1件を加えたRCTを対象として解析したところ、血管イベントを5年以内に起こすリスクの予測値が10%未満の低リスク群であっても、LDL-C 1mmol/L低下当たり30%を超える血管イベントの減少が認められた。一方、癌発症や癌死、非血管疾患などは、非投与群/標準療法群と投与群/積極療法群の間に有意な差はなく、安全性が確認された。著者らは、「(低リスク者へのスタチン投与を推奨していない)現行ガイドラインの再考が迫られるのではないか」と考察している。本研究成果はLancet2012年5月17日号に掲載された。


注) LDL-Cの単位換算式:mg/dL = mmol/L × 38.67、小数点3位以下は四捨五入。


(日経メディカル別冊)

図1 CTTによる26RCTメタ解析の主な結果(出典:CTT Collaboration. Lancet 2010; 376; 1670-80.)