L太郎は、大学を卒業してMRとなり、その後、高校時代の2歳年下の女性と結婚して約10年の歳月が流れた。その間に子宝にも恵まれ、男の子2人は順調に成長して小学生になった。週末には家族そろって買い物や食事に行ったり、年に1〜2回は家族旅行に出かけるなど、絵に描いたような幸せな家庭だった。

 そんなL太郎の「浮気の虫」が騒ぎ出したのは、訪問先の病院で開催した新製品の説明会の時だった。この新製品はIVH(中心静脈栄養)製剤で、担当の先生に相談したところ、「使用中の患者の日常の管理など、ナースを含めたコメディカルの人たちにもこの薬のことを知ってもらいたい」との要請があり、普段よりも規模の大きい院内説明会を開くことになったのである。

 この説明会の手伝い役として総師長から任命されたのが、看護師のM主任だった。L太郎は説明会に向けて、院内に向けた開催の告知から、会場の予約や設営、当日の弁当や飲み物の手配まで作業に奔走したが、そのL太郎を陰で日向で献身的に助けてくれたのがM主任だった。

 説明会は、無事に終了した。終了後、L太郎は、事前に聞いていたM主任の携帯電話のメールアドレスにお礼のメールを送った。そして、そのメールの最後に、少し控えめにこう書いた。「今度、お礼の意味を込めて、お食事をごちそうさせていただけませんか」。

 彼女からは、意外にもすぐにOKの返事があり、シティーホテルのレストランで食事をすることになった。

 食事の時間は、あっという間に過ぎた。彼女はワインの酔いも手伝ったのか、普段は聞けないような院内事情を色々と話してくれた。その中には、先生方の趣味から、院内の微妙な人間関係まで、L太郎の今後の営業活動に大いに役立つ内容もあった。そしてL太郎も、日ごろの営業活動の悩みや上司や同僚の愚痴を、面白おかしく彼女に話した。彼女は微笑みながらその話を聞いてくれた。L太郎にとって、久しぶりの、癒しを感じる一時であった。

 その晩、2人はそのまま別れたが、それ以来、家にいても仕事中でも、L太郎の頭にはM主任のことがこびり付いて離れなかった。L太郎は意を決して再度M主任を食事に誘い、2週間後に再び食事する機会を得た。今度は学生時代の話で盛り上がり、楽しい時間を過ごすことができた。

 そんな楽しい食事会を何度か繰り返していたある日、彼女の方から誘いのメールが入った。彼女から誘いがあるのは初めてのことだった。指定された場所は、町外れの丘の上にあるステーキハウスだった。2人は夜景を眺めながら、ロマンチックなムードで食事を楽しんだ。

 帰り際、L太郎はそっと彼女に言った。「ちょっと休んでいこうか」。彼女は、はっきりとした返事こそしなかったが、拒否することもなく、L太郎と寄り添うように一緒に歩いていった。

 向かっていたホテルの前に近づいた。すると、1人の女性がL太郎に向ってツカツカと歩いて来た。そして女性は腕をつかんで言った。「お父さん、帰りましょう」。その声を聞いてL太郎は、はっと我に返った。その女性は、まぎれもなくL太郎の妻だったのである。

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 この話は、筆者の部下であった男が語ってくれた“武勇伝”である。妻がなぜホテルのそばにいたのか、その本当の真相は明らかではないが、おそらくL太郎の奥さんは、夫の携帯電話をこっそり盗み見していたのだろうと思う。M主任からの携帯メールの内容でステーキハウスの場所を知り、向かいそうなホテルに当たりをつけて、決定的な現場を押さえるために、近くで待ち伏せをしていたのではないだろうか。

 MR諸君にとっても、携帯電話や電子メールは非常に便利なツールであり、先生方や会社との連絡に十分に活用していると思う。だが一方で最近では、L太郎のように、家族や会社に内緒で使える秘密の連絡手段として悪用している男性諸氏も少なくないらしい。そして、L太郎のように、それが原因で“悪事”が発覚するというケースもまれではないようである。

 そんなことを続けていると、いつか悪事は発覚し、幸せな家庭生活が崩壊することにつながりかねない。さらに、相手が仕事の関係者であれば、社にとってのダメージにもなりかねない。とにもかくにも、家族が一番である。肝に銘じたい。