かかりつけ医の先生方が認知症患者さんを診療する機会は、(1)物忘れを主訴に受診してきた初診患者さん、(2)再来患者さんのなかで認知症に進展している患者さん――の2通りかと思います。

 「もの忘れ外来」という専門外来を受診する患者さんとその家族は、認知症の有無を判断してほしいとの希望で受診してくるので、診察は認知症に絞って行うことになります。そのため診断はそれほど難しくありません。一方、かかりつけ医の先生方の場合、身体疾患などで長年ご自身の外来に通院されている再来患者さんの家族から、認知症に関する相談を受けるあるいはその患者さんが認知症に進展しているか否かの判断を求められることが多いのではないでしょうか。

 私の経験では、長年見ている患者さんのなかで認知症に進展している患者さんをすくい上げることはとても難しいと考えています。長年つき合っている患者さんの場合、日々の慣れからその変化に気づくことが難しいからです。私も糖尿病で長年診療していた患者さんが認知症に進展したとき、娘さんから「もう2年くらい前からもの忘れがひどく生活に困っています。気づきませんでしたか」と言われ愕然としたことを記憶しています。「認知症かな?」という視点で患者さんを診察しないと認知症に気づかないことが多いのです。今回は、再来患者さんのなかで認知症に進展している患者さんを見分けるコツについて考えていきましょう。

再来患者さんで認知症を考える場合とは?
 表1は、再来患者さんの言動や行動のなかで認知症を疑う要点を示したものです。再来患者さんのうち、認知症がいまだ軽度の場合や家族が認知症に気づいていない場合は、通常の診療のために患者さんお一人で先生方の外来を受診することが圧倒的に多いと思います。その場合、診察室での患者さん自身の言動や行動を注意深く観察すると認知症の有無を判断する一助になります。認知症に進展した患者さんでは、記憶障害の存在に伴う不安や戸惑い、自信のなさなど、以前と異なる言動や行動の変化が見られることが多いので、診療する医師に注意深い観察力が求められることになります。

 診察室での会話では、記憶障害が原因と考えられるとんちんかんな言動や、理解力低下によるあやふやな回答、不適切な会話内容などに注意するとよいでしょう。行動面では、自信なさそうな態度や確認行動の有無、整容の適否(診察日の服装がきちんとしているか、ボタンの掛け違いやだらしない衣服の着かたや季節に合わない衣服を着ていないかなど)、医師が指示したことをスムーズにできるか否かなどに注目して診察を進めます。

 受付や会計の際の患者さんの行動や態度も認知症の判断に役立つことがあります。たとえば、会計のときに小額なのに常に1万円札を出しておつりをもらうのは、金銭のやり取りに不安を感じることから高額な紙幣を使用することでその場を切り抜けようとする患者さんの心理を表しています。一度預かった保険証や診察券を返してもらったのに、それらがないと訴えるのもアルツハイマー型認知症ではしばしばみられます。

表1 再来患者さんで認知症を疑う際のポイント

「認知症ではないか?」との視点で診療を行う
 診療中に再来患者さんの様子や態度に奇異な印象を受けた場合、雑談のなかで「今、季節はいつ頃でしょうか?」「昨日、夕飯は何を食べましたか?」と尋ねてみるとよいでしょう。このときの回答が正しいか否かの判断も大切ですが、答える際の患者さんの様子を十分に観察することを忘れないようにしたいものです。言い訳が多い、答えられないことを気にしない、考えようとしないなどの反応は認知症を疑う根拠になります。認知症が疑われるからと即座に長谷川式簡易知能評価スケールHDS-Rなどを施行すると、患者さんによっては逆に怒り出す可能性があるため、雑談のなかで患者さんの記憶や見当識を確認するのがよいと思います。

 この時点で認知症が疑われた場合(この段階では認知症との診断はできないことが多い)、次回の受診では患者さんの生活をよく知る家族を呼び、日常生活の様子を尋ねましょう。正しい診断に繋がります。