2017年8月25日、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体トシリズマブの皮下注製剤(商品名アクテムラ皮下注162mgシリンジ、同皮下注162mgオートインジェクター)の適応が追加された。追加された適応は「既存治療(原則として経口ステロイド薬)で効果不十分な高安動脈炎、巨細胞性動脈炎」。1回162mgを1週間隔で皮下注射する。トシリズマブには関節リウマチの適応を有した皮下注製剤と静注製剤があり、特に静注製剤は若年性特発性関節炎やキャッスルマン病にも使用されている。

 血管炎症候群は罹患した血管のサイズから大型、中型、小型血管炎に分類される。大型血管炎は大動脈や四肢、頭頸部に向かう最大級の分枝の血管炎で、高安動脈炎巨細胞性動脈炎に分けられる。高安動脈炎は、大動脈およびその主要分枝や肺動脈、冠動脈に閉塞性、あるいは拡張性病変をきたす原因不明の非特異的大型血管炎であり、橈骨動脈脈拍の消失がよくみられることから「脈なし病」とも呼ばれている。巨細胞性動脈炎は、大型・中型の動脈に巨細胞を伴う肉芽腫を形成する動脈炎であり、大動脈とその主要分枝、特に頚動脈と推骨動脈の枝が高い頻度で障害され、しばしば側頭動脈が侵される。

 国内では高安動脈炎および巨細胞性動脈炎がともに難病に指定されており、患者数は合計で7000人程度と推定されている。標準治療薬には経口ステロイド薬を用いるが、臨床症状や検査値異常などを是正できない場合や、疾患の再発が生じる場合がある。加えて、長期投与による重篤な副作用で投与継続困難となる例もあり、そのような症例にシクロホスファミド(エンドキサン)、アザチオプリン(イムラン、アザニン)などの免疫抑制剤が使用されるが、これらの治療を行っても効果不十分な症例も多い。

 高安動脈炎および巨細胞性動脈炎の発症機序に関しては、現時点においても十分な解明はされていないものの、ウイルス感染などのストレスをきっかけに発症すると考えられている。自己免疫応答が関与していると推定され、インターロイキン6(IL-6)などのサイトカイン産生が病態形成に重要な因子であるとの報告もされている。これらのことから、国内外において経口ステロイド薬で効果不十分な症例に対してトシリズマブ投与の臨床試験(高安動脈炎:国内第3相試験、巨細胞性動脈炎:海外第3相試験)が行われ、それぞれの試験結果から有効性と安全性が確認された。また、本製剤は2014年6月に大型血管炎に対する治療薬として希少疾病用医薬品の指定を受けている。

 適応追加のために実施されていた国内外の臨床試験から、症例の半数程度(国内50.0%、海外52.3%)に副作用が認められていることに注意する。主な副作用としては上気道感染などがあり、既存の適応の臨床試験を含めると、重大な副作用にはアナフィラキシーショック、アナフィラキシー、感染症、間質性肺炎、腸管穿孔、無顆粒球症、白血球減少、好中球減少、血小板減少、心不全が報告されている。

 なお、本剤はステロイド薬による適切な治療を行っても疾患活動性を有する場合、ステロイド薬による治療の継続が困難な場合に投与を検討する薬剤であることに注意する。本剤と高用量のステロイド薬を長期に併用投与した場合の安全性は確認されておらず、本剤投与後は患者の状態に応じてステロイド薬の減量を考慮する。また、今回の高安動脈炎、巨細胞性動脈炎に関する適応追加は皮下注製剤のみであり、静注製剤には適応がないことにも十分留意する必要がある。