2016年7月4日、乳児血管腫治療薬プロプラノロール塩酸塩のシロップ製剤(商品名ヘマンジオルシロップ小児用0.375%)の製造販売が承認された。1日あたり1mg/kg〜3mg/kgを9時間以上あけて2回に分割し、空腹時を避けて経口投与する。投与は1日1mg/kgから開始し、2日以上の間隔を空けて1mg/kgずつ増量、1日3mg/kgで維持するが、患者の状態に応じて適宜減量する。

 乳児血管腫(Infantile Hemangioma:IH)は苺状血管腫とも呼ばれ、出生時もしくは生後間もなく発症する血管内皮の増殖を特徴とする良性血管性腫瘍であり、発症率の男女差は1:3と女性に多い。一般的に生後1〜4週に出現し、1年以内に急速に増殖するが(増殖期)、その後90%以上は5〜7歳までに数年かけて徐々に自然消退する。一方、病変の大きさや発生部位によっては、うっ血性心不全、気道狭窄、眼瞼眼窩病変による視性刺激遮断弱視、斜視、乱視、耳下腺病変に伴う外耳道閉鎖、出血を伴う潰瘍形成等、重要臓器および感覚器官に影響を及ぼすことから、症状発現時には早期治療が必要とされている。

 これまで、IHに対する治療として日本では適応を有する薬剤はなく、ステロイド薬、インターフェロンα、ビンクリスチンなどを用いた治療が試みられているが、いずれも有効性のエビデンスが不十分で、副作用や乳児の発育に対して影響を及ぼす懸念があった。また、個々の患者の状態に応じてレーザー治療、凍結療法、手術等が行われているが、全身麻酔が必要なことと、治療後に血管腫が残存することも問題となっていた。

 ヘマンジオルは、非選択的β受容体遮断薬プロプラノロールのシロップ製剤である。プロプラノロール(インデラル他)は、1960年代より高血圧、狭心症、不整脈等の治療薬として錠剤、注射剤ともに広く臨床使用されてきた。IHへのプロプラノロールの有用性に関しては、IHを合併する肥大型閉塞性心筋症患者に投与したことがきっかけで偶然発見された。その後2008年に論文発表されたことで乳児用シロップ製剤の開発が進み、海外では2014年3月に米国で、2014年4月に欧州で承認・臨床使用されている。作用機序の詳細は明らかになっていないが、プロプラノロールの血管収縮作用、細胞増殖抑制作用、血管新生抑制作用、アポトーシス誘導作用が関与すると考えられている。

 日本ではIHへの適応を有する医薬品がないことから、日本小児血液・がん学会より早期開発要望が「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」(厚労省)に提出され、高い評価を得たことで、今回の承認に至った。海外でのプラセボ対照第2/3相二重盲検比較試験では、24週後に「治癒」または「ほぼ治癒」した患者は60.4%であり、プラセボ群と比べて有意差が認められている。さらに、国内における増殖期のIH患者を対象とした国内非盲検非対照試験においても、高い有効性が認められ、2013年11月に希少疾病用医薬品に指定された。

 海外の臨床試験では38.2%に副作用が認められている。主な副作用には末梢冷感(7.4%)、下痢(5.3%)、中期不眠症・睡眠障害(各5.1%)、悪夢(4.6%)などがあり、重大なものは低血圧、徐脈、房室ブロック、低血糖、気管支痙攣、高カリウム血症、無顆粒球症が報告されている。国内の臨床試験では31.3%に副作用が認められており、下痢(12.5%)、AST増加(6.3%)、ALT増加(6.3%)、拡張期血圧低下(6.3%)、収縮期血圧低下(6.3%)だった。

 投与患者の保護者などには、本製剤がバニライチゴ味のシロップ剤であること、患者の体重に応じた用量を専用のピペットで秤量すること、投与中に低血圧や低血糖などのリスクがあるため状態によっては投与を中止する必要があることなどの、注意喚起と情報提供を行う必要がある。特に低血糖を起こすおそれがあるため、空腹時投与を避け、授乳中・食事中または直後に投与することが注意点となっている。