2016年5月31日、抗悪性腫瘍薬トラメチニブ(商品名メキニスト錠0.5mg、同錠2mg)が発売された。本薬は、3月28日製造販売が承認され、5月25日薬価収載されている。適応はBRAF遺伝子変異を有する根治切除不能な悪性黒色腫で、1日1回2mgを空腹時に投与する。なお、トラメチニブはBRAF阻害薬であるダブラフェニブ(タフィンラー)との併用療法を行うことになっている。

 悪性黒色腫は、皮膚の色素を産生するメラノサイトや母斑細胞が悪性化した腫瘍であり、皮膚癌の中で最も悪性度が高いと言われている。臨床症状は多彩であり、黒色調の色素斑ないし腫瘤がみられ、進行速度や症状によって4つの病型(末端黒子型、結節型、表在拡大型、悪性黒子型)に分類されている。2012年には、全世界で推定23万人が悪性黒色腫と診断されている。早期に治療すれば大部分が治癒可能だが、皮膚やリンパ節に転移を認めるIV期まで進行すると、5年生存率は10%前後と言われている。他の癌と同様に早期発見、早期治療が最も重要である。

 現在の治療法としては、摘出術などの外科療法の他に、速中性子線や重粒子線を用いた放射線療法、温熱療法、免疫療法、化学療法などが試みられている。従来、日本では進行性の悪性黒色腫に対する標準化学療法は抗悪性腫瘍薬ダカルバジンの単独療法のみであった。しかし近年になり、新しい作用機序を有したヒト型モノクローナル抗体である抗PD-1抗体ニボルマブ(オプジーボ)と抗CTLA-4抗体イピリムマブ(ヤーボイ)、BRAF阻害薬ベムラフェニブ(ゼルボラフ)などの分子標的治療薬が臨床使用されるようになった。なお、同じくBRAF阻害薬であるダブラフェニブもトラメチニブと同時に発売となった。

 種々の癌細胞の分化・増殖において重要なシグナル伝達経路であるマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路中の因子の1つにBRAFがある。BRAFは癌原遺伝子で、600番目のコドンに変異を有するBRAF(BRAF V600E)遺伝子変異は、悪性黒色腫の約50%に認められている。また、腫瘍の進行時にはBRAF V600E遺伝子変異によりMAPK経路が恒常的に活性化され、下流の細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)およびマイトジェン活性化細胞外シグナル関連キナーゼ(MEK)を活性化することで、細胞に異常増殖などを引き起こすと考えられている。

 トラメチニブは、MAPK経路のMEK1とMEK2の活性化およびキナーゼ活性を阻害するMEK阻害薬である。BRAF阻害薬と併用投与すると、単剤投与と比較して強力な腫瘍縮小効果が得られる。さらにBRAF阻害薬の耐性獲得にMAPK経路の再活性化の関与が示唆されていることからも、併用によってBRAF阻害薬に対する耐性獲得を抑制することで抗腫瘍効果が持続すると期待されている。

 ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法とBRAF阻害薬ベムラフェニブ単独投与とを比較した海外の試験(第3相臨床試験)にて、同併用療法の有効性と安全性が確認された。ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法は2014年1月に米国で承認されて以降、2015年9月までにオーストリア、カナダなど計34カ国で承認されている。日本では2015年4月に、ダブラフェニブおよびトラメチニブがともに希少疾病用医薬品に指定されている。

 使用の際は、ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法による国内外の臨床試験で非常に高い頻度の副作用(臨床検査値異常を含む)が認められていることに注意する。主な副作用は発熱、悪寒、AST増加、末梢性浮腫、疲労などであり、重大なものは心障害、肝機能障害、間質性肺疾患、横紋筋融解症、深部静脈血栓症、肺塞栓症、脳血管障害が報告されている。