2016年5月25日、抗悪性腫瘍薬オシメルチニブメシル酸塩(商品名タグリッソ錠40mg、同錠80mg)が薬価収載と同時に発売された。本薬は3月28日に製造販売が承認されている。適応は「EGFRチロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性のEGFR T790M変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌」。1日1回80mgを経口投与し、副作用発現時には休薬、減量(1日1回40mg)または中止する。

 年齢別にみた肺癌の罹患率および死亡率は、ともに40歳代後半から増加し始め、高齢になるに従って上昇する。年齢調整死亡率の年次推移は1960年代から1980年代に急激に増加したが、1990年代後半から男女ともに横ばいもしくは若干減少する傾向が認められている。しかし肺癌は依然として悪性腫瘍による男性の死因の第1位であり、生存率の改善が進んでいない。

 肺癌の80%以上は非小細胞肺癌(NSCLC)であり、発見時には既に遠隔転移している症例も少なくない。このNSCLCに対する化学療法では、プラチナ製剤に細胞障害性抗癌剤を併用するプラチナ併用療法が主流であったが、癌細胞の増殖に関与する変異型上皮成長因子受容体(EGFR)のチロシンキナーゼを選択的に阻害する薬剤のゲフィチニブ(イレッサ)、エルロチニブ(タルセバ)、アファチニブ(ジオトリフ)が臨床使用されるようになり、EGFR遺伝子変異を持つNSCLCの治療成績は飛躍的に向上してきた。しかし一方で多くの場合、治療開始1年から1年半ほどで治療抵抗性(耐性)を生じ、病勢が進行してしまうという大きな課題があった。

 近年、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の治療抵抗性検体から新たな変異がいくつか見出されている。このうちの1つがT790M変異と呼ばれるもので、EGFR遺伝子エクソン20に存在する、790番目のトレオニン(T)がメチオニン(M)に置換される遺伝子変異だ。さらに耐性が確認された患者の約60%においてT790M変異が確認されている。

 オシメルチニブは既存のゲフィチニブなどと同様にEGFR-TKIである。しかし、既存のEGFR-TKIに治療抵抗性を示すEGFR T790M変異陽性のEGFRチロシンキナーゼに対しても不可逆的に阻害する作用を持つ。

 EGFR-TKI治療中あるいは治療後に病勢が進行しEGFR T790M変異陽性と診断されたNSCLC患者を対象として、2つの国際共同第2相臨床試験(AURA延長試験及びAURA2試験)が行われ、有効性と安全性が確認された。2015年11月に米国で承認されて以降、2016年3月までにEU、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーで承認されている。

 国際共同第2相臨床試験にて86.4%に副作用が認められている。主なものは発疹・ざ瘡等(37.7%)、下痢(36.5%)、皮膚乾燥・湿疹等(28.5%)、爪囲炎を含む爪の障害(23.4%)などであり、重大なものは間質性肺疾患、QT間隔延長、血小板減少、好中球減少、白血球減少、貧血、肝機能障害が報告されている。日本人集団では93.8%に副作用が認められ、半数以上に発疹、ざ瘡が発現した。間質性肺疾患は6.3%だった。

 なお、本薬の適応患者を選択するためにEGFR T790M変異陽性を検出できるコンパニオン診断薬(コバスEGFR変異検出キットv2.0)も今年3月に発売された。