2016年3月28日、抗悪性腫瘍薬イブルチニブ(商品名イムブルビカカプセル140mg)の製造販売が承認された。適応は「再発又は難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)」。用法用量は1日1回420mgを経口投与とし、患者の状態により適宜減量する。

 慢性リンパ性白血病(CLL)は日本ではまれなB細胞性の腫瘍で、単一な小型円形から軽度の異型を持ったリンパ球が血液中で増加する。慢性リンパ性白血病細胞の表面にはCD5 とCD23 という表面抗原が認められるのが一般的だ。また、末梢血や骨髄よりもリンパ節が病変の主体であるものは小リンパ球性リンパ腫(SLL)と定義されているが、本質的にはCLLと同一の疾患とみなされる。

 CLLの治療は、分子標的治療薬の登場により飛躍的に向上している。CLLに対する日本での第一選択は、フルダラビン(商品名フルダラ)単剤療法、フルダラビンを中心とした多剤併用療法、シクロホスファミド(商品名エンドキサン)と他の薬剤の併用療法である。再発または難治性のCLLに対しては、CD20を標的とする分子標的治療薬のオファツムマブ(商品名アーゼラ)、CD52を標的とする分子標的治療薬アレムツズマブ(商品名マブキャンパス)などが臨床使用されている。

 しかし一方でCLLの薬物療法には難しい点が残っている。再発が多い難治性の血液腫瘍であること、CLLに適応を有する薬剤が少なく治療選択肢が限られていること、再発または難治性のCLLに対する標準的な治療法が確立していないことが大きな問題になっていた。

 近年、SLLを含めたCLLなどの多くのB細胞性腫瘍の発症、増殖及び進展に、B細胞受容体(BCR)からのシグナル伝達経路が関与していると判明してきた。さらに、B細胞に発現するケモカイン受容体を介するシグナル伝達経路は、B細胞の遊走、接着及びホーミングに関与していることも分かってきた。

 今回承認されたイブルチニブは、BCRからのシグナル伝達に関与し、最終的にB細胞の活性化に貢献しているブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)を阻害する。具体的には、BTKの活性部位のシステイン残基と共有結合し、BTKのキナーゼ活性を持続的に阻害してBCR及びケモカイン受容体のシグナル伝達経路を遮断する。

 再発又は難治性のCLL・SLL患者を対象とした海外臨床第3相試験、再発又は難治性成熟B細胞性腫瘍患者を対象とした国内第1相試験において、イブルチニブの有効性、忍容性などが認められた。海外では2014年2月に米国、2014年10月に欧州で承認されて以降、2016年1月までに世界67カ国で承認されている。日本では2014年6月に希少疾病用医薬品として指定されていた。

 国内第1相試験では、全例に副作用が認められていることに注意する。主なものは好中球減少症(53.3%)、貧血(46.7%)、発疹・血中ビリルビン増加(各40.0%)などで、重大なものは出血、白血球症、感染症、進行性多巣性白質脳症(PML)、骨髄抑制などが報告されている。

 また、イブルチニブは肝薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)3Aにより代謝される。そのため経口ケトコナゾール(国内未発売)、イトラコナゾール(商品名イトリゾール他)、クラリスロマイシン(商品名クラリシッド他)との併用は、ブルチニブの血中濃度が上昇し、副作用が増強される危険性があることから禁忌となっている。