2013年9月、抗悪性腫瘍薬のトラスツズマブ エムタンシン(商品名カドサイラ点滴静注用100mg、同点滴静注用160mg)が製造承認を取得した。適応は「HER2陽性の手術不能又は再発乳癌」で、用法・用量は「1回3.6mg/kg、3週間間隔で点滴静注」となっている。

 日本では、乳癌の新規罹患患者数は年々増加しており、2015〜2019年の年間新規罹患患者数は約6万人と推定されている。この乳癌患者のうち約20%は、悪性度が高いヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)陽性とされる。HER2は、上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)ファミリーに属する受容体型チロシンキナーゼで、細胞の増殖・分化等を調節すると考えられている。

 HER2陽性の乳癌では、HER2蛋白やHER2遺伝子の増殖が認められており、HER2の機能を抑制するヒト化HER2モノクローナル抗体を投与することで、癌の増殖を抑制できる。ヒト化HER2モノクローナル抗体としては、トラスツズマブ(商品名ハーセプチン)、ラパチニブ(商品名タイケルブ)、ペルツズマブ(商品名パージェタ)が国内外で使用されている。

 今回承認されたカドサイラは、ヒト化モノクローナル抗体のトラスツズマブにチューブリン重合阻害薬のエムタンシン(DM1)を安定性の高いリンカー(チオエーテルリンカー)で結合した抗体薬物複合体である。DM1の親化合物であるメイタンシンは強力な細胞傷害性を有する一方で、安全域の狭さから臨床応用には不適とされてきた。しかし、トラスツズマブとの結合により腫瘍選択的にDM1の送達が可能となり、薬物有害反応を最小限に抑えながら抗腫瘍効果を発揮することが可能となった。

 つまりカドサイラは、HER2陽性乳癌細胞に対して選択的に作用し、トラスツズマブがHER2シグナル伝達を抑制し、抗体依存性細胞障害作用(ADCC)活性を誘導するとともに、DM1が細胞傷害活性による抗腫瘍効果を発揮する薬剤である。

 国内外の臨床試験で、カドサイラの有効性と安全性が報告されており、海外では2013年2月に米国で承認されている。承認時までの国内臨床試験では、91.8%に何らかの副作用が認められている。主な副作用は、倦怠感(43.8%)、鼻出血(41.1%)、悪心(39.7%)、発熱(31.5%)などであり、重大な副作用としては、間質性肺疾患、心障害、過敏症、Infusion reaction、肝機能障害、肝不全、血小板減少症、末梢神経障害に注意が必要である。

 なおカドサイラは、薬価収載及び発売開始までの間、国内の臨床情報を収集することを目的として、参加条件などを制限した臨床試験を一部の医療機関で行う予定である。