2010年3月23日、厚生労働省の医薬食品局安全対策課通知で、抗精神病薬の「使用上の注意」改訂が指示された。具体的には、重大な副作用の事項に「肺塞栓症深部静脈血栓症」が追記され、重要な基本的注意の項に「不動状態、長期臥床、肥満、脱水状態等の危険因子を有する患者に投与する場合には注意すること」といったハイリスク者への注意喚起が追記された。

 血栓症とは、血栓により血管が突然閉塞する病態であり、閉塞した部位によって、「脳梗塞」「心筋梗塞」「肺塞栓」「深部静脈血栓症」などの疾患名となる。このうち、今回、抗精神病薬の重大な副作用として追記された「肺塞栓症」では、胸痛、突然の息切れ、呼吸困難、血痰・喀血、ショック、意識消失など症状が出現し、「深部静脈血栓症」では、急激な片側下肢(まれに上肢)の腫脹・疼痛・しびれ、発赤、熱感などが現れる。

 一般に血栓症は、ほとんどが何の前触れもなく突然発症することが多い。また薬剤性のものも、薬剤投与後早期に発症するもの(抗線溶薬など)から、発症までに数週間から数カ月、あるいは数年以上といった相当期間がかかるもの(ホルモン製剤、副腎皮質ステロイド薬)まで様々である。

 今回、抗精神病薬で一斉にこの添付文書改訂が行われたのは、欧州医薬品庁ファーマコビジランス作業部会(PhVWP)の『抗精神病薬による静脈血栓塞栓症(VTE)の発症について』という勧告〔月例報告書(2009.10.29):PDFファイル〕がきっかけである。PhVWHの勧告では、VTEについて、製品情報(添付文書)に次のように記載することを提言している。

(1)抗精神病薬投与により、VTEが発現した症例があることから、VTEとの関連は否定できないこと。
(2)治療開始前と治療中にVTEのリスク因子(不動状態、長期臥床、肥満、脱水状態など)を確認して、適切な予防措置をとるべきであること。

 これを受けてわが国では、抗精神病薬投与例における国内での血栓症の発現状況報告が調査され、今回の使用上の注意の改訂指示に至ったものである。

 今後は、薬剤性の血栓症を引き起こす危険性がある薬剤として、従来からの抗線溶薬、ホルモン製剤、副腎皮質ステロイド薬とともに、抗精神病薬にも十分に注意する必要がある。抗精神病薬の服用者では、十分に観察を行い、薬剤投与中に初期症状としての息切れ、胸痛、四肢の疼痛、浮腫などが認められた場合には、投与を中止するなど適切な処置を行わなければならない。