2009年12月28日、バンコマイシン塩酸塩の眼軟膏製剤(商品名:バンコマイシン眼軟膏1%)が発売された。本製剤は、既に2009年10月16日に製造承認を取得し、12月11日に薬価収載されていた。適応は「バンコマイシンに感性のメチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)、メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(MRSE)による既存治療で効果不十分な結膜炎、眼瞼炎、瞼板腺炎、涙嚢炎」であり、用法・用量は「1日4回適量を塗布」である。

 MRSAなどに対して使用するバンコマイシンVCM)製剤は、既に経口製剤の錠剤が広く使用されており、その適応は「骨移植時の消化管内殺菌」「クロストリジウム・デフィシル偽膜性大腸炎」「MRSA腸炎」である。さらに静注製剤も、MRSA感染症の中心的治療薬として1991年より使用され、2004年には「ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)」への適応が追加承認されている。

 これらバンコマイシン製剤や、テイコプラニン(TEIC、商品名:タゴシッド)、アミノグリコシド系抗菌薬のアルベカシン硫酸塩(ABK、商品名:ハベカシン)の登場により、MRSAの検出率こそ減少していないものの、院内感染においてMRSA感染症で治療に難渋する例は減少してきている。

 しかし、眼科領域でのMRSA感染症に関しては、有効な治療法が限られていた。バンコマイシンの静注も試行されてきたが、静注したバンコマイシンの眼房水への移行率が低く、有効濃度に達するには副作用を懸念する程の高用量の投与が必要になるという問題があった。

 また一部の病院では、バンコマイシンの静注製剤を使い、院内製剤として点眼液や眼軟膏が調製されていた。だが、バンコマイシンは水溶液中で不安定であるため、点眼液や眼軟膏の状態で長期間保管することは難しく、外来患者に投薬できないという問題があった。加えて、バンコマイシンには組織刺激性があるため、眼疾患への使用時に刺激を感じる患者が多く、コンプライアンスに問題が生じやすいという欠点もあった。

 こうしたことから、日本眼感染症学会は、眼局所への刺激性がなく、製剤学的に長期間安定で、感染病巣内への移行性が高い眼感染症用バンコマイシンの製剤化を要望しており、それを受けて開発されたのが、この「バンコマイシン眼軟膏1%」である。

 バンコマイシン眼軟膏は、油脂性の基剤で結膜や角膜への移行が極めて早く、眼刺激性がほとんどなく、長期にわたって製剤的に安定であり、使用される温度で適切な粘度を保ちながら結膜嚢に短時間で拡がる──などの特徴を有している。

 ただし、バンコマイシン耐性菌の出現を抑える観点から、厚生労働省からは「バンコマイシン眼軟膏の使用に当たっての留意事項について」(薬食審査発1016第1号)が発出されており、今後とも、販売対象医療施設が限定される見込みとなっている。また製薬会社も「バンコマイシン眼軟膏1%使用成績調査委員会」を設立している。