2009年6月19日、抗悪性腫瘍薬のラパチニブトシル酸塩水和物(商品名:タイケルブ錠250mg)が薬価収載と同時に発売された(製造承認取得は4月22日)。適応は「HER2過剰発現が確認された手術不能または再発乳癌」で、カペシタビン(商品名:ゼローダ)と併用する。1日1回、空腹時(食事の1時間以上前または食後1時間以降)に経口投与する。

 近年、分子レベルの癌研究が進んだ結果、細胞性癌遺伝子、癌関連遺伝子がコードする蛋白質の多くが、細胞シグナル伝達系で機能していることが明らかになってきた。そして、癌細胞の細胞膜表面に存在するいくつかの増殖因子受容体の異常により、細胞シグナル系を活性化し、癌細胞を増殖すると考えられている。

 最近になり増殖因子受容体の中でも、受容体型チロシンキナーゼファミリーの上皮増殖因子受容体(EGFR)の関与が高いことが判明している。このEGFRは、EGFR(ErbB1)、HER2(ErbB2)、HER3(ErbB3)、HER4(ErbB4)に分類されるが、EGFRとHER2の過剰発現は、予後の不良および生存期間の短縮に関係していることが判明している。そこで、これらへの阻害作用を示す薬剤(いわゆる分子標的薬)が続々と開発され、抗悪性腫瘍薬として使用されている。

 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬としては、非小細胞肺癌に適応を有する薬剤として、ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)やエルロチニブ(商品名:タルセバ)などが承認されている。また、トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)は、HER2に対する抗体医薬として、HER2が過剰発現した転移性乳癌に臨床使用されている。

 今回のラパチニブは、EGFRとHER2の両受容体に対して、強力かつ選択的な可逆的阻害作用を示す分子標的薬である。日本では、乳癌に適応を持つ初めてのEGFRチロシンキナーゼ阻害薬でもある。

 海外の臨床試験では、アントラサイクリン系薬剤、タキサン系薬剤、トラスツズマブの治療歴があり、HER2過剰発現が認められた進行性もしくは転移性の乳癌に対して、ラパチニブをカペシタビンと併用したところ、カペシタビン単独療法に比べて無増悪期間を有意に延長させたことが確認されている。日本でも、ラパチニブ単独療法による第2相臨床試験で、既存薬剤の治療後に進行・再発した乳癌患者において、有意な腫瘍縮小効果などが確認されている。

 今後、ラパチニブとカペシタビンとの併用療法は、既存の治療に抵抗を示す転移性・再発性乳癌の治療において、新たな選択肢として定着していくものと予想される。

 投与に当たっては、重大な副作用として、肝機能障害、間質性肺疾患、心障害、下痢、QT延長が認められていることに注意する。また、疲労、下痢、掻痒症、食欲不振、発疹、アラニンアミノトランスフェラーゼ増加、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加、血中ビリルビン増加、皮膚乾燥、手掌・足底発赤知覚不全症候群などの副作用が高率に認められるので注意したい。