2009年1月21日、経口抗悪性腫瘍薬のニロチニブ塩酸塩水和物(商品名:タシグナカプセル200mg)が製造承認を取得した。適応は、イマチニブ(商品名:グリベック)抵抗性の慢性骨髄性白血病(慢性期または移行期)で、具体的には、イマチニブで効果不十分、またはイマチニブに忍容性のない患者が投与対象となる。

 慢性骨髄性白血病(CML)では、骨髄の造血幹細胞で第9染色体(ABL遺伝子)と第22染色体(BCR遺伝子)の相互転座が起こり、それによって生じたキメラ遺伝子(BCR-ABL遺伝子)がBcr-Abl蛋白を産生することで発症する。Bcr-Abl蛋白は、そのチロシンキナーゼ活性により細胞増殖シグナルを亢進させ、白血球細胞を無秩序に増殖させる。

 慢性骨髄性白血病の治療には、従来からインターフェロン製剤が使われていたが、日本では2005年に、Bcr-Abl蛋白を選択的に阻害するイマチニブが使用可能になった。イマチニブは、インターフェロン製剤に比べて副作用も少なく、5年生存率も高いことから、すぐに慢性骨髄性白血病における標準的治療薬として位置付けられるようになり、その有用性は現在も高く評価されている。

 しかし、イマチニブに抵抗性を示す症例や、副作用などが理由で使用が継続できない症例では、予後が極めて悪いことが明らかになった。また、イマチニブへの反応性と奏効期間は、慢性骨髄性白血病の病期に依存することも判明した。実際、国内の慢性骨髄性白血病患者は約8000人と推定されているが、そのうちの2割程度は、イマチニブで効果不十分または忍容性のない患者であるとされる。

 今回承認されたニロチニブは、イマチニブと同様、Bcr-Abl蛋白のチロシンキナーゼ活性を阻害することで効果を発揮するが、Bcr-Abl蛋白をより選択的に阻害するように理論的に分子設計されている。このためニロチニブは、Bcr-Abl蛋白に対して、イマチニブの約30倍強い阻害活性を有する。

 また、イマチニブ抵抗性を有する慢性骨髄性白血病患者では一般にBCR-ABL遺伝子の変異が認められるが、ニロチニブは、多くの場合、変異したBCR-ABL遺伝子が産生する蛋白のチロシンキナーゼ活性をも阻害できる。実際、ニロチニブの国内での第2相臨床試験において、イマチニブ抵抗性の慢性骨髄性白血病患者の100%に血液学的完全寛解が見られ、94%には細胞遺伝学的大寛解、69%には細胞遺伝学的完全寛解、56%には分子遺伝学的大寛解が認められており、忍容性も良好なことが確認されている。

 ニロチニブは、2007年7月にスイスで承認されて以降、米国、欧州など世界50カ国以上で発売されている。日本でも、ニロチニブの優れた有効性と安全性から、イマチニブ抵抗性の慢性骨髄性白血病に広く使用されていくものと考えられる。

 ただしニロチニブは、食後投与で血中濃度が上昇したという報告があることから、食事の影響を考慮した処方設計が必要である。添付文書では「成人に1回400mgを食事の1時間前または食後2時間以降に1日2回、12時間毎を目安に経口投与」となっている。また、本薬投与によるQT延長例や心タンポナーデによる死亡例も報告されているので、十分に注意しなくてはならない。