2008年12月12日、甲状腺癌診断補助薬ヒトチロトロピン アルファ(商品名:タイロゲン筋注用0.9mg)が薬価収載された。2009年早々にも発売される見込みである。

 分化型の甲状腺癌で甲状腺を全摘もしくは準全摘した患者では、転移の有無などを確認するために、放射性ヨウ素を用いたシンチグラフィー(I-123シンチ)や、血清中のサイログロブリン(Tg)濃度を調べる検査を行うが、ヒトチロトロピン アルファは、そうした検査の前に投与される診断補助薬である。

 甲状腺摘出患者における甲状腺癌の再発や転移の診断では、I-123シンチと血清Tg試験を併用するか、Tg試験単独で行うのが一般的である。そもそも甲状腺細胞には、ヨウ素を摂取する機能やTgを産生する機能があり、分化した甲状腺癌でもこうした機能が維持されている。このため、甲状腺を摘出した甲状腺癌患者に、放射性ヨウ素(I-123)を服用させ、それが集積する箇所が検出できれば、転移した甲状腺癌細胞の位置が特定できる。また、Tgは甲状腺細胞でしか産生されないため、甲状腺摘出後に血清からこれが検出されれば、甲状腺癌細胞が体内に存在することが示唆されることになる。

 しかし甲状腺摘出患者では、甲状腺ホルモンの補充療法を行っており、これにより下垂体にフィードバックが働くため、下垂体から甲状腺刺激ホルモン(TSH)が分泌されなくなる。上述した甲状腺由来細胞のヨウ素摂取やTg産生といった機能には、TSHによる刺激が必要なため、この検査を実施するには、甲状腺ホルモン製剤の投与を一時的に中止し、生体内からのTSH分泌を復活させる必要がある。実際には2週間ほど、甲状腺ホルモン製剤の投与を中止するのが一般的である。

 だが甲状腺全摘患者で、甲状腺ホルモンの投与をやめると、結果的に甲状腺機能低下の症状(耐寒性の低下、動作緩慢、異常感覚など)が起こり、患者は多大な苦痛を覚えることになる。こうした検査が必要な患者は、年間で1000人ほどと推定されている。

 今回、薬価収載されたヒトチオトロピン アルファは、遺伝子組み換えのTSHである。本薬を前もって投与(筋注)することで、患者への甲状腺ホルモン製剤投与を中止することなく、甲状腺由来細胞へのヨウ素摂取やTg産生を促進することができる。海外では、1998年に米国で承認されて以降、EU(欧州連合)をはじめ、51カ国で承認されている。

 国内での臨床試験では、従来の甲状腺ホルモンを中断する方法と比べて、同等かそれ以上の優れた結果が得られており、安全性に関しても専門医の指導の下で使用すれば大きな問題はないことが確認されている。ただ、希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)の指定を受けており、国内での臨床試験での症例数も少ないことから、承認にあたっては、製造販売後、一定数の症例でデータが集積されるまで、全使用症例を対象とした使用成績調査が義務付けられている。

 本薬は、患者のQOL改善を図ることができる有意義な診断補助薬として、専門家から大きな期待を集めている。ただし国内の臨床試験では、症例数は少ないものの、70%に何らかの副作用が認められているので注意が必要である。主な副作用は、白血球減少、眼瞼浮腫、悪心、嘔吐、食欲減退、呼吸困難、白血球数増加、尿中ブドウ糖陽性、血中乳酸脱水素酵素増加などである。