2008年7月7日、HIV感染症治療薬のラルテグラビルカリウム(商品名:アイセントレス錠400mg)が発売された。本薬は、6月24日に製造承認を取得し、6月27日に薬価収載されている。適応症は「HIV感染症」で、必ず他の抗HIV薬と併用するように定められている。

 1980年代に初めて報告された後天性免疫不全症候群AIDs)は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染によって起こる代表的な病態である。AIDsを含めたHIV感染症の治療では、作用の異なる複数の抗HIV薬を併用する多剤併用療法(カクテル療法)が主流となっており、この治療法は「HAART」(highly antiretroviral therapy)と呼ばれる。具体的には、3種類の抗HIV薬(核酸系逆転写酵素阻害薬、非核酸系逆転写酵素阻害薬、プロテアーゼ阻害薬)を組み合わせて服用するのが一般的であり、このHAARTの登場で、HIV感染症患者の死亡率は大きく減少したとされる。

 しかし一方で、これら複数の薬剤に耐性を獲得したウイルスが出現し、治療継続が困難になる例も問題になっている。また、抗HIV薬の様々な副作用や、肝薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)を介した薬物間相互作用も問題であり、専門家などからは、新しい作用機序を持つ抗HIV薬の登場が待望されていた。

 今回発売されたラルテグラビルは、既存薬とは違う全く新しい作用機序を持った抗HIV薬である。これまでの研究で、HIVなどのレトロウイルスの複製には、「逆転写酵素」「プロテアーゼ」「インテグラーゼ」の3種類の酵素が必要であることが解明されている。このうち前2者については阻害薬が実用化されているが、インテグラーゼについては、これまで阻害薬が存在していなかった。ラルテグラビルは、このインテグラーゼを阻害する作用を持つ薬剤として、世界で初めて実用化された抗HIV薬であり、既存薬に耐性を獲得したHIVに対しても効果が期待できる。また本薬は、主にグルクロン酸抱合で代謝されるため、CYPを介する相互作用が起こりにくいことも特徴である。

 海外では、2007年に米国とEU(欧州連合)で承認されており、日本では、希少疾病用医薬品に指定されて優先的に審議され、今回の発売となった。今後、ラルテグラビルは、従来薬とは異なる新規の作用メカニズムを持つ抗HIV薬として、HIV感染症治療に欠かせない薬剤の一つになっていくものと予想される。

 なお本薬は、前述の通り、必ず他の抗HIV薬と併用しなければならない。本薬自体は、比較的副作用が少ないと見られているが、使用時には、併用する抗HIV薬の副作用も含めて、患者にきちんと説明する必要があるだろう。