2008年1月25日、血液凝固阻止薬エノキサパリンナトリウム(商品名:クレキサン皮下注)が製造承認を取得した。適応は「下肢整形外科手術(股関節全置換術、膝関節全置換術、股関節骨折手術)施行患者における静脈血栓塞栓症の発症抑制」である。

 静脈血栓塞栓症(VTE)とは、深部静脈血栓症(主に下肢の深部静脈に血栓ができる病態)と肺血栓塞栓症(深部静脈に形成された血栓が肺動脈に飛んで肺動脈が塞がれ、重篤な場合は死に至る疾患)といった一連の病態の総称である。臨床症状が乏しいことから早期発見が困難であり、発症すると死亡率が高いことが知られている。

 特に、膝関節骨折全置換術や股関節全置換術などの下肢整形外科手術施行患者では、VTEの発症リスクの上昇が認められていることから、術後早期から薬物などを使った予防が行われている。具体的には、ワルファリンカリウム(商品名:ワーファリンほか)、へパリンカルシウム(商品名:カプロシンほか)、へパリンナトリウム(商品名:ヘパリンほか)などの抗血栓薬が使用される。また2007年6月には、下肢整形外科手術施行患者の静脈血栓塞栓症予防に適応を持つ薬剤として、合成Xa阻害薬のフォンダパリヌクス(商品名:アリクストラ皮下注)が発売された。これら薬剤に、新たな選択肢として追加されるのが、今回承認されたエノキサパリンである。

 エノキサパリン(平均分子量:約4500)は、未分画ヘパリンを酵素や化学的処理で低分子化した「低分子ヘパリン」である。低分子ヘパリン製剤は、従来からダルテパリンナトリウム(商品名:フラグミン)などが使用されているが、これらの適応は「血液透析時の灌流血液の凝固防止」「汎発性血管内血液凝固症(DIC)」などであり、静脈血栓塞栓症の発症抑制を適応に持つ低分子ヘパリンは、日本ではエノキサパリンが初めてである。エノキサパリンは、凝固Xa因子の抑制が主作用であり、トロンビンの抑制効果が少ないため、トロンボプラスチン時間の延長作用は弱く、出血傾向が弱いとされている。また半減期が長く(約3.2時間)、1日2回の皮下投与でVTE発症抑制効果が認められる点も特徴である。

 これまでに、1987年にフランス、1993年に米国で承認されて以降、現在までに世界111カ国で承認されており、延べ1億8000万人に使用されているという。こうした世界的な評価の高さから、発売後はわが国でも使用頻度や使用量が多くなると推測される。ただし臨床試験では、副作用として血腫・出血、ALTやγ-GTP上昇、血小板数増加、貧血などが認められており、さらに重篤なものとしては、脊椎・硬膜外麻酔あるいは腰椎穿刺などの穿刺部位に生じた血腫により、神経が圧迫されて麻痺が起こる危険がある。これらに関しては、添付文書の警告欄にも記載されているので、使用に当たっては最新の添付文書を熟読しておく必要がある。