「フィズリン錠30mg」(製造・販売:大塚製薬)

 バソプレシンV2受容体拮抗薬モザバプタン塩酸塩(商品名:フィズリン錠)が、2006年9月に薬価収載され、まもなく発売される見込みである。モザバプタンは、「異所性抗利尿ホルモン産生腫瘍による抗利尿ホルモン不適合分泌症候群SIADH)における低ナトリウム血症」に適応を取得した日本で初めての薬剤である。対象となる患者数が少ないことから、希少疾病用医薬品(いわゆるオーファンドラッグ)に指定されている。

 SIADHは、抗利尿ホルモンADH:antidiuretic hormon)のバソプレシンの分泌過剰に起因する疾患である。バソプレシンの作用が過剰になることで、腎集合管での水再吸収が促進され、腎臓からの水排泄が抑制されることにより、水貯留(自由水貯留)が起こる。臨床症状としては、水分貯留および低ナトリウム血症による脳浮腫や中枢神経症状(頭痛、嘔気・嘔吐、傾眠など)があり、早期に治療が行われないと死に至ることもある。SIADHの原因としては、中枢神経系疾患(髄膜炎など)、肺疾患(肺炎、肺結核など)、抗利尿ホルモン異所性産生腫瘍(肺小細胞癌、膵癌など)、薬剤(ビンクリスチン、クロフィブラートなど)などが知られている。

 治療では、低ナトリウム血症を是正し、脳浮腫の発生を防止することで、中枢神経症状を改善することが目標となる。ただし、これまではSIADHに直接的な効果を有する薬剤がなく、抗菌薬のデメクロサイクリン(商品名:レダマイシン)や抗てんかん薬のジフェニルヒダントイン(商品名:フェニトイン)などが用いられてきたが、効果としては不十分な症例も多かった。また、水貯留を抑制するために、「水分制限」を行うのが一般的だが、患者には苦痛が大きく、QOLの低下を引き起こすことが問題となっていた。

 今回発売されるモザバプタンは、バソプレシンV2受容体を特異的に阻害するV2受容体拮抗薬である。腎集合管の受容体に直接作用し、SIADHにおける低ナトリウム血症を改善する。従来の利尿薬とは異なり、電解質排泄の増加を伴わずに水排泄の増加をもたらす「水利尿作用」が特徴である。

 今回、適応が認められたのは、水分制限を実施しても効果不十分な「異所性抗利尿ホルモン産生腫瘍によるSIADH」の患者である。投与に当たっては、(1)空腹時に投与すると、Cmax(最高血中薬物濃度)などが上昇し、作用が強く発現する可能性があるため、食後に投与する、(2)夜間の排尿を避けるために、朝食後または昼食後に投与する‐‐といった点に注意する必要がある。さらに、現時点では、有効性や安全性に関する検討が十分でないことから、投与開始3日間で有効性が認められた場合に限り、最大7日間まで継続投与できることになっている。

 なお、添付文書の警告欄では、「急激な血清ナトリム濃度の上昇により橋中心髄鞘崩壊症を来す危険性」と「生殖細胞に染色体異常を誘発する危険性」について、注意が喚起されている。高ナトリウム血症による橋中心髄鞘崩壊症の副作用を回避するために、投与後は医師の監視下で血清ナトリウム値や尿量、臨床症状などを定期的にチェックする。特に投与開始直後は、血清ナトリウム濃度を頻回に測定することが必要である。また染色体異常については、禁忌項目に「妊婦または妊娠している可能性のある婦人」が明記されていることから、特に女性患者では事前に投与の可否を慎重に検討する必要がある。

【訂正】
10/12に以下の点を訂正いたしました。
・フィズリン錠の一般名は、承認時は「塩酸モザバプタン」でしたが、発売時に「モザバプタン塩酸塩」に変更されましたので、訂正します。