2010年、『ニューズウィーク』誌は、この進歩に関する記事を掲載した。「精神疾患の遺伝的特質はまだよくわかっていないが、薬の代謝に影響する遺伝子については、多くのことが明かされつつある」とその記事には書かれていた。メイヨークリニックとシンシナティ小児病院の研究者らは、薬物代謝において主要な役割を果たしている酵素群、「シトクロムP450スーパーファミリー」(CYP450)をコードする遺伝子を研究し、その遺伝子に変異があると、薬の代謝速度が変わることを発見した。速く代謝する場合、薬の効果は早く消え、遅く代謝する場合、薬の効果は長く続く。

症状に変化がなくても、薬が効いているかどうかがわかる

 ちまたで行われている遺伝子検査は、こうした知識の恩恵を受けている。たとえばGeneSightRx では五つの遺伝子を調べるが、そのうちの三つは、CYP450の経路に含まれるタンパク質をコードするものだ。残りの二つは、脳のセロトニン受容体とセロトニン輸送体の遺伝子をそれぞれコードする。これまでに、メイヨークリニックとシンシナティ小児病院の1万2000人の患者がGeneSightRxの検査を受け、それぞれの代謝傾向に合う薬物療法を受けた。

 GeneSightRxだけでなく、ナビジェニクス社などの遺伝子検査でも、同様の情報を得ることができる。しかし、大変なのはその先で、医師は、変異と薬の代謝に言及した論文を読み、さらに、その方向から薬の効果を評価した論文を調べて、患者に適した薬を選ばなければならない。本書が刊行されるころには、GeneSightRxはさらに発展し、より多くの遺伝子を調べられるようになっているだろう。そうなれば、この検査は投薬の指針として、いっそう信頼できるものになる。私の会社が行った、私自身の検査結果を図表に示した。選択した薬の効果と、他の薬の副作用を表している。

図表◎薬の効果と副作用

 体内で働く薬のバランスを継続的に計測し、調整できるようになれば、薬は試行錯誤によってではなく、より科学的根拠のある方法によって開発されるようになるだろう。正しい薬を服用していながら、その人の代謝率に対して服用量が少なく、効果が出ない、といった失敗は避けられるようになる。

 また、進行の遅い病気は、とりわけプロテオミクスの恩恵を受けるだろう。表面化するまでに何年もかかる病気、たとえばアルツハイマーやALS(筋萎縮性側索硬化症)は、投薬を始めても、その効果がわかるまでに何年もかかる。また服用量が適当かどうか、そもそも、その薬自体が適切かどうかもわからない。しかし、タンパク質を調べて、細胞間の会話を聞くことができれば、症状に変化がなくても、薬が効いているかどうかがわかるはずだ。症状の変化には何年もかかるかもしれないが、薬の効果を即座に知ることができれば、その薬を続けるか、他の薬に切り替えるかを判断できるのである。

 このような革新は栄養学の世界でも起きている。伝統的な漢方薬やアーユルヴェーダ、あるいは食事を通じて体のバランスを立て直そうとするあらゆる食事療法に、裏づけとなる科学的モデルはない。ゲノミクスとプロテオミクスが登場したことによって、それらはようやく科学を取り込めるようになった。科学的モデルがあれば、何を食べれば体のバランスを正せるかを、より合理的に理解することができるだろう。その通りにするかどうかは別として、少なくとも、自分に何ができるかを知ることができる。後は本人次第だ。