ここで、超電導を利用した装置で1滴の血液を実際に見てみよう。それは、全身のタンパク質を見るに等しい情報を教えてくれる。星座のように見えるかもしれないが、これは人間のプロテオームの高解度画像である。1滴の血液を、7万メガピクセルのカメラで撮影したに等しい解析度だ。言うなればこれは、血液中のタンパク質の「写真」であり、その原子レベルの詳細なデータを収めるには、40ギガバイトの容量が必要とされる(この画像は、全データの24分の1しか示していない)。

図表7 プロテオーム解析(その1)
出典:アプライド・プロテオミクス社

 色(ここでは白黒だが)は、タンパク質の量を示している。最も量の多いタンパク質は、星が密集したように見える。これらの特徴(たとえば色のついた点)のすべてを理解する必要はないが、そのうちの数千は、既知のタンパク質として同定でき、関連する遺伝子もわかっている。それらの機能、たとえばカフェインの代謝を助けるタンパク質であるとか、それらが体内のどこで(たとえば胃で)作られるかといったこともわかる。たとえるなら、グーグルアースでごく微小な点を見るようなもので、ズームアウトしていくと、それが冷水魚のタンパク質だということがわかり、ひいては、その人がランチにサーモンかカレイを食べたことまで類推できる。

 もちろん、この技術が目指しているのは、もっと有益な発見、たとえば体内で異常事態が起きていることを示すタンパク質や、病気の前兆となるタンパク質の発見である。タンパク質について理解が進み、データベースがさらに堅牢になれば、その目的は達成されるはずだ。

 この情報を利用すれば、体の中で何が起きているかを知ることができる。先に述べた通り、DNAは静的な存在だが、タンパク質は動的な存在であり、体内で何が起きているかによって、刻々と変化する。南カリフォルニア大学の応用分子医学センター、および、私がダニー・ヒリスと設立したアプライド・プロテオミクス社では、まさにこの作業が進められている。つまり、体内のタンパク質と、それらが体の健康状態について語る言葉を理解し、翻訳しようとしているのだ。

 最終的な目的は、タンパク質の情報から病気を見つけること、つまり、タンパク質に基づく検査手段の確立である。プロテオミクスの最初の商業利用は、治療の効果を示すマーカーを調べる「治療診断」になるだろう。プロテオミクスの技術で血液マーカー(異変や異常が起きていることを示すタンパク質)を調べることにより、病状の変化を明らかにし、薬や手術の効果を知ったり予測したりできるようになる。これは、今日行われている、生検などの侵襲的な(体を傷つける)技術に代わるものである。プロテオミクスによって医師は、より良い治療法を探し、侵襲的なアプローチが必要かどうかを調べられるようになるだろう。

 プロテオミクスにはほかの利用法もあるだろうか。たとえば、大腸ポリープの成長を示すタンパク質を血液中に見つけられるようになれば、大腸内視鏡で調べるより、はるかに楽だろう。一般に、ある年齢を過ぎると5年から10年ごとに大腸内視鏡検査を受けることを勧められる。しかし1000人に1人は、その検査自体からダメージを受ける。その検査を受けることを想像しただけで、不安になる人も多いだろう。

 しかし、残念ながら現時点では、大腸内視鏡検査は、大腸がんを早期発見する最善の方法となっている。もしも年に1度の血液検査でそれが発見できるなら、そのほうがずっといいのではないか? 取り除くべきポリープが見つかった場合だけ、大腸内視鏡検査を行えばよいのだ。これはプロテオミクスがもたらす可能性のほんの一例にすぎない。医療費はもちろん下がるだろうし、侵襲的検査による思いがけない事故も減少するだろう。

 現在、医師は、技術の限界に縛られている。しこりががんかどうかを調べるには、生検(組織を採取して調べる)によるほかない。また、卵巣がんは早期発見が難しい。体を傷つけることなく、それを早期に発見できる技術があればどんなにいいだろう。プロテオミクスが発展すれば、子宮がん検診の折に血液検査もして、卵巣がんの兆候を示すタンパク質があるかどうかを調べるようになるだろう。やがてプロテオミクスを土台とする新たな技術が開発され、医学に革命が起きるに違いない。(次回に続く)