しかし、現時点では、DNA解析によって病気の可能性を確実に予測するには至っていない。嚢胞性線維症のように、ある遺伝子に問題があると必ず発症する病気もあるが、多くの病気はそれほど単純ではない。病気になった体の中で何が起きているかを理解するには、食材のリストを調べるだけでなく、作られた料理を食べる必要がある。その料理に相当するのがプロテオミクスだ。タンパク質は遺伝子が導くプロセスの最終生成物である。病気の中には、遺伝子が生成したタンパク質によって引き起こされるものがある。伝説の歌手ウディ・ガスリーを死に至らしめた遺伝性疾患、ハンチントン病もその一つだ。

 タンパク質が単なる栄養素でないのであれば、レストランの比喩をもう少し広げて考えなければならない。すでに述べたように、問題となるのは食材ではなく、調理のプロセスと、厨房で交わされる会話である。人体は驚くべき構造を持っているが、さらに興味深いのは、それを作り、維持し、修正するプロセスだ。そのプロセスは、あらゆる細胞の内部、あるいは細胞間で交わされる会話からもたらされる。細胞同士は、何をしゃべっているのだろう? プロテオミクスとはこの会話の内容を理解しようとするものだ。別の言い方をすれば、それは、人間の体内で休みなく交わされる会話を盗聴しようとするスパイ活動なのだ。

タンパク質は生命と健康の中核となる材料

 タンパク質は、有機体の基本となるもので、細胞内のあらゆるプロセスに関わっている。多くのタンパク質は、体内でのさまざまな化学反応を触媒する酵素であり、代謝作用に欠かせない。細胞骨格タンパク質のアクチンや、アクチンを制御するミオシンなどは、細胞の構造やメカニズムを支えている。そのほか、細胞間のシグナル伝達、免疫反応、細胞接着、細胞分裂周期においてもタンパク質は重要な働きをしている。ゆえに、タンパク質は生命と健康の中核となる材料だと言える。タンパク質のアミノ酸配列は、遺伝子によって決まり、その遺伝子はDNA上に並んでいる。今日、タンパク質の配列の解読は、DNAの解読と同じく容易にできるようになったが、体の中でタンパク質が実際に何をしているか、また体内のシステムにどのように影響しているのかは、容易には「解読」できない。

 タンパク質はまた、食事においても重要である。なぜなら、私たちは、他の動物と同様、必要なアミノ酸を体内で合成することができず、食品から摂取しなければならないからだ。タンパク質を含む食品を食べると、タンパク質は分解されてアミノ酸となり、吸収されて血液の中を通って細胞に運ばれ、そこで利用される。人間の体はまさに食べたものでできているのであり、体を化学的に分析すれば、その構成要素は食品とほぼ同じになるだろう。水、脂肪分子、炭水化物、タンパク質複合体、ビタミン、ミネラル等々。体は自立的に稼働している工場のようなものであり、そこでは常に自己再生が進められている。そして皮膚は1カ月、肝臓は6週間、骨は3カ月で、すっかり新しいものになる。

 プロテオミクスが有効なのは、体がパイプを張り巡らせたような構造をしているからだ。血液は全身を循環するので、血液中のタンパク質は、体内で起きるすべての現象を反映する。たとえば、つま先が細菌に感染していたら、腕から採った血液からも炎症を起こしたタンパク質が検出される。つまり、どこから採った血液によっても、あなたの健康状態を知ることができるのだ。しかし肝心なのは、すべてのタンパク質の意味と、それらがどのように連動して体を健康にするか(または病的にするか)を理解することだ。そしてそれこそが、プロテオミクスが力を発揮する領域なのである。(次回に続く)