この三つの段階において、薬が同じメカニズムで働いているとは断言できない。というより、そもそもこの薬がどんなメカニズムで働いているのか、わかっていないのだ。抗がん剤は、体の複雑なシステムを混乱させて、がんの環境を変えているのかもしれない。骨を形成する薬が乳がんの再発を抑え、プラチナ由来の薬がランスの運命を変えたように。

薬の使い方を知らないだけかもしれない

 私たちの身体システムは、常に変化し続けている。それは、試験管やペトリ皿の中にあるものより、はるかに動的なのだ。そのシステムを変化させ、体内環境をより健康的な方向へ向かわせる治療法が見つかることを私は望んでいる。もしかすると、私たちはすでに、ほぼすべての病気(侵入者によるものではなく、システム全体の故障がもたらす病気さえ)を治すのに必要な薬を手に入れているのかもしれない。ただ、その薬をいつ、どれだけ、どのように使えばいいのかを知らないだけなのではないだろうか。

 新たな技術が発達し、データが増えるにつれて、その答えは明かされていくだろう。また、ある薬がある病気に効くとわかっていても、それがほかの病気に対して、さらに驚異的な効果を発揮する可能性があることを忘れてはならない。

 環境とその変化が病気の治療と進行に大いに関わっているという考えは、薬の開発にも適用される。私は、実験動物で効果が実証された抗がん剤が、なぜ人間には効かないのか、と問われると、三つの主な理由を説明する。

 第1に、動物の腫瘍は、人間の腫瘍よりはるかに速く成長する。マウスでは、2週間で全身の大きさの20〜30パーセントに相当するがん細胞を成長させることもできるのだ。驚異的な成長速度である。そして、ある薬をマウスに与え、そのせいで吐き気が誘発され、食事量が減れば、がんの成長は遅くなる。がん細胞は普通の細胞より頻繁に分裂するので、より多くの栄養を必要とし、栄養が断たれると飢餓状態に陥るのだ。これは、薬が効いた結果と言えるのだろうか。それとも、単にマウスの摂取カロリーが減った結果にすぎないのだろうか。それを確認する方法はない。人間と実験動物という二つの「環境」は、根本的に異なっているのだ。

 第2に、人間の腫瘍は独特で、他の動物で複製しようとしても、その性質は違ってくる。さらに、すでに見てきたように、腫瘍の成長にとっては環境が重要であり、実験動物で人体の環境を模倣するのは、不可能ではないとしても、かなり難しい。

 第3に、それが人間であれ動物であれ、生体が異なると、薬の効果は異なる。ある薬を投与すると、連鎖的にいくつもの反応が起きるが、それは、薬の量や投与した時間、そして、投与された人あるいは動物の代謝など、さまざまな要因によって違う。異なる生体で薬の効果を再現するのは難しく、その結果を解釈するのは、さらに難しいのである。

 病気を体系的な観点から見るより良い方法が見つかるまで、私たちの追及を巧みに逃れるこの強敵を、予防し、治療し、治すことはできないだろう。しかし、良い知らせがある。じきに生体医学工学の分野で革命が起きて、体を複雑なシステムと見なす新たなモデルが浸透すると予想されるのだ。この革命は、より健康になるために欠かせない数々のデータをもたらすだろう。(次回に続く)