自分の祖父母のうち何人が「老衰」で亡くなっただろう? 病気や死に関することは、家族の間でも話題にしにくいので、患者さんたちは病院の待合室で、病歴に関するアンケートを埋めながら、頭を悩ませることになる。

 母親のコレステロール値は高かったのだろうか? アールおじさんの死因は何だったのだろう? 家族の中に糖尿病かがんの人はいるか? もし、おばあちゃんや、おばあちゃんの妹の背中が曲がっていたとしたら、骨粗しょう症になりやすいかもしれない。あるいは、父親は40代で軽い心臓発作を起こし、父方のおじいさんはさらに若い年齢で、その病気で亡くなっているかもしれない。家族の病歴は、その人が抱える健康上のリスクを教えてくれるので、それを知らないのは危険なことである。

 家族の病歴はあまり活用されていないが、自分の体を知るうえで、とりわけ強力な道具となる。2010年、クリーブランド・クリニックで行われた研究は、家族の健康歴を知ることは遺伝的ながんのリスクを予測する最良の道具である、と結論づけた。

 不愉快な思いをしたり、長距離電話をかけたりしなければならないとしても、その「道具」は基本的にただで、コストと言えば質問に費やすわずかな時間だけだ。それでも、信頼できる家族の健康歴を知る人は少ない。米国政府の調査ではそれを調べている家族は3分の1以下だとされるが、忙しい医師が患者に、それを作るよう勧めることはまれである。

 もし、祖父や大叔父に電話で聞きにくいのであれば、次の休暇に集まって話を聞くようにしよう。里帰りや葬儀のときは、絶好の機会になるかもしれない。米国保健福祉省が運営する無料のウェブサイト(https://familyhistory.hhs.gov)は、家族の健康歴を作り親類や医師と共有するのに役立つはずだ。一方の家系を忘れてはならない。よくあることだが、患者さんが女性で、父方の親戚についてあまりよく知らないのであれば、注意が必要だ。乳がんと卵巣がんのリスクは、どちらの家系からも受け継ぐからだ。

 家族の健康歴には、遺伝的なリスクのほか、環境やライフスタイルも影響する。誰がタバコを吸っていたか? 誰が太りすぎだったか? 早死にした家族がいる場合、その要因は? これらの問いに対する答えは、良い教訓となって、より良い自己管理へと人々を導いてくれるだろう。とは言え、探偵のように根掘り葉掘り調べ上げるのが嫌になったら、別の方法を採ることもできる。それは遺伝子検査である。

 この10年間にテレビのニュースを見たり、新聞や雑誌を読んだりする時間の余裕があった人なら、1990年に始まった一大プロジェクトが完了したことはご存じだろう。人間のDNAを構成する30億個余りのブロックの、すべての配列が解読されたのだ。ここでは、その小さなかけらにより近づき、健康を維持するための壮大な計画の中に、それを適切に位置づけよう。現代の遺伝子検査の基本的なことも解説しよう。

DNA配列のわずかな配列の違いが疾病リスクの差になる

 遺伝子コードは「ヒトゲノム」とも呼ばれ、人間の体の数十兆もの細胞すべてに存在し、人間の生体活動に指示を与えている。そのコードは、染色体と呼ばれる23組の「情報の束」の中に配列されている。私たちは、染色体を父親と母親から1組ずつ受け継いでいる。染色体はDNAのひもからなり、そのひもには2万から2万5000種の遺伝子(遺伝情報を担うDNA配列)が含まれる。よく知られるように、DNAはヌクレオチドのはしごからなる二重らせん構造をしており、ヌクレオチドを構成する塩基には、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)の4種類がある。これらのヌクレオチドは遺伝子の主要な要素で、髪の毛の色からパーキンソン病の素因に至るまで、あらゆることを決めている。