しかし、アミロイド斑と神経原線維のもつれが脳機能に及ぼす影響は、十分理解されているわけではない。アルツハイマー病患者の大半の脳にはその両方が見られるが、アミロイド斑だけ、あるいは神経原線維のもつれだけ、という患者もわずかながらいる。だが、こうした物理的特徴を有しながら、アルツハイマーの兆候が見られない人はどうなのだろう。ベネットの発見は、私たちがこの疾患についていかに知らないかを語っている。彼は「神経の蓄え」という概念によって、その矛盾を説明しようとする。

 「神経の蓄え」は、学歴が高く、社会的にも肉体的にも活動的な人について言えることのようだ。ベネットは、「人生経験を通じてより良い脳を作ること」によって、アルツハイマーの発症を遅らせることができると考えている。こうした人々の脳はなぜ、老いた後も健康なのだろうか。彼らが人生をどのように生きたかがわかれば、私たちは、生きている限り脳を健全に保ち、人生を楽しめるようになるはずだ。

 より良い脳を作っておけば、有害な炎症から脳を守ることができる、という考えには励まされる。努力次第で脳の劣化を遅らすことができるというのだから。アルツハイマーは最も一般的な認知症であり、米国ではおよそ530万人が罹患し、死因の7位となっている。生活の質や医療が向上し、寿命が延びるにつれて、その患者数は増えてきた。ベビーブーマーが老年に達する頃、その数はさらに増えると予想される。愛する人がアルツハイマーで何年も苦しむのを見るのは、大層つらいに違いない。この苦痛が地球上から一掃され、人々が体も脳も健やかなまま長生きできるようになるのを、私はこの目で見たいと思っている。

 驚くほどのことではないが、最近、フットボール関係者の間にさらなる衝撃が走った。ロヨラ大学シカゴ校ストリッチ医学校の科学者たちの研究により、NFLの引退選手、513名のうち、35パーセントが、アルツハイマーの症状のテストで、かんばしくない成績をとったのだ。その中からランダムに41人を選んで詳しく調べたところ、脳機能が、軽度認知障害(MCI)に近いことがわかった。

 MCIの人が皆、アルツハイマーを発症するわけではないが、喜ばしい結果でないのは確かだ。MCIになると、物忘れや混乱が増えたり、物事に集中しにくくなったりする。軽度のアルツハイマーになったようなものだ。この研究者らは、NFLのレギュラー選手は、補欠の選手に比べて、健康な脳組織が少なくなっている、と指摘した。残念ながら、ヘルメットはこの手の損傷から脳を守ってくれない。脳を守るにはフィールドから離れるしかないのだ。

 脳の炎症は、アミロイド斑や神経原線維のもつれをもたらすが、体のほかの部位も、病気や機能障害のせいでしばしば炎症を起こす。とりわけある部位の炎症は、多くの人が幼い頃からよく経験するが、その影響は、思いがけないほど長期間に及ぶ。(次回に続く)