DNAは驚くほど回復力に富んでいる。誰の体にも、DNAが壊れると修理屋を送りこむ仕組みが備わっており、その仕組みは一つではない。人間の体には、驚くほど多くの選択肢が備わっていて、どれほど危機的な状況に陥っても、代替策があるのだ。そうでなければ、私たちはどうやって人生のあらゆる困難を乗り越えられるだろう。人間の体は、実によくできているのだ。

 しかし、それもある程度まで、の話だ。その限界がどこにあるのかは誰にもわからない。外傷を繰り返したり、病気やけがが長引いたりして、慢性的な炎症にさらされると、体はDNAの修復プロセスを停止する。DNAの修復には多大なエネルギーが必要とされるので、体はいったんその作業を中断して、エネルギーを炎症の修復に集中させるのだ。

 DNAの修理屋が店を閉めている間、体はがんやその他の疾患に冒されやすくなるのではないかと考えられている。炎症が治まると、修理屋は再び店開きするが、すでに手遅れになっていることもある。がん細胞が増殖を始めており、DNA修復機構は役に立たず、がんが進行するのだ。まだ仮説にすぎないが、非常に興味深い見方だ。

 炎症とがんにつながりがあるのは確かで、証拠も多くそろっている。中でも、『米国心臓病学会誌』2010年6月22日号で紹介された研究は注目に値する。高コレステロール血症の治療に関する二十数件のランダム化比較試験を分析したところ、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が10mg/dL増えるごとに、がんのリスクは36パーセント下がることがわかった。この関係は、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、年齢、肥満度(BMI)、糖尿病の有無、性別、喫煙状況の調整後も変わらなかった。研究者は、どちらが原因でどちらが結果かはわからない、と述べているが、この発見は、HDLが抗炎症と抗酸化の機能を持ち、がんを抑制し得ることを示唆している。

 頭を度々ぶつけたりしていると、DNAが傷ついてがんになりやすくなるだけでなく、脳の一部が壊れる恐れがある。頭蓋骨の中で脳が揺さぶられると、神経細胞やシナプスが傷つく。パデュー大学のグループは、頭を何度もぶつけると、その時は何事もなくとも、将来、悪影響が出る恐れがあるのではないかと考え、センサー付きのヘルメット、ビデオ、認識力テスト、磁気共鳴機能画像法(fMRI)を用いて、高校のフットボール選手に頭部外傷による神経学的変化が見られるかどうかを調べた。

 ヘルメットに付けたセンサーにより、選手同士がぶつかると、最大100Gの力が加わることがわかった(普通のジェットコースターで乗客にかかる力は、5G程度である)。ぶつかって脳振とうを起こした選手は、脳に神経学的変化が生じたと予測されていたが、実際その通りだった。注目すべきは、強い衝撃、あるいは数多くの衝撃を受けながら平気そうに見えた選手を、認識力テストと脳スキャンで調べてみると、2人に1人は認識力に異常が認められたことだ。記憶力が低下し、最も頻繁に衝撃を受けた脳の部位の活動が変化していた。これは重大な発見である。脳振とうを起こさなかった選手は、激しい衝撃を受けた後もプレーを続けた結果、頭部の外傷性障害が進行し、神経が傷ついたり、知的能力が衰えたりする危険を冒していた可能性が高い。