世界の癌診療をリードするASCOだが、その米国では、癌関連の医療費急騰への対処が焦眉の課題だ。ASCOで発表された研究成果を日本に持ち帰ることは、高騰する医療費という課題も同時に持ち帰ることになる。

解決への模索─その1 不要な診療を削れるか

 「癌診療の経済;皆の問題」と題した教育セッションで講演した米国立衛生研究所(NIH)のEzekiel Emanuel氏は、まず、「米国全体のヘルスケアのコストは2.2兆ドル。これは、食品全体のコストの2倍以上の額」と高額な医療費の現状を語った。「州政府の予算のなかで最も大きな歳出枠を占めているのが医療費(65歳以上に与えられる公的医療保険のメディケアなど)であり、医療費の影響を受けて、各州の教育費が減少している」と、警鐘を鳴らした(図1、2)。

 そして、高騰する医療費を抑制するためには、「個々の費用を下げる、もしくは、無駄な治療や検査などを節約するしかない」と訴える。

 「例えば、終末期の医療費は、米国を代表する医療機関においてすら、約2 倍の差がある」と、UCLA、Massachusetts General Hospital、Mayo Clinicの3医療機関における終末期の医療費を比較した表を紹介した(表2)。

 UCLAの医療費が高い要因としては、医師の診察回数がMayoの約2倍となっている点、入院日数が約6日多い点などを指摘した。

 「医療費に大きな差があったとしても、UCLAとMayoで医療の質に差があるとはいえないだろう」とし、医療の質を下げずに、医療者の個々の努力により、医療費の削減は可能とまとめた。

解決への模索─その2 費用助成のポータルサイトを作成

 教育セッション「癌診療に伴うコスト−患者に何を話し何を目標とすべきか」では、会長講演で紹介された医療コストに関するタスクフォースの委員でもある非営利組織CancerCareのDiane Blum氏(写真)が、まず、いわゆる一般的な中流家庭において、癌の診療に必要な費用が家計を直撃している現状、また、自己破産を余儀なくされている家族の実例などを紹介した。

 そして、「患者の多くは、費用の問題を医師と話すことに躊躇しており、そのため、患者・家族に対し、医療費に関する情報を提供する必要性が高まっていた」と、冊子を作成した経緯を語った。

 加えて、新たな試みとして、ASCOをはじめとする米国内の11の団体で結成された組織、CFAC(Cancer Financial Assistance Coalition)を紹介した。

 CFACは活動の一つとして、患者・家族に対して費用助成などのサポートを提供している米国内の支援組織の情報をまとめたウェブサイトを作成している。

 このウェブサイトでは、癌種や費用の詳細(生活費、薬剤費、交通費など)ごとに、最寄りの支援組織を検索することができる。「これまでばらばらに存在していた情報をまとめたもの」(Blum氏)だ。

 Blum氏は、「患者にとっては、癌の診断だけでも危機的状況。加えて医療費の問題は大きな障害。我々は、この問題に対して責任を持つ必要がある」と強調する。

 医療費に関するタスクフォースの座長を務めるBeth Israel Deaconess Medical CenterのLowell Schnipper氏も、同セッションで、「米国では癌患者の5人に1人が、コストを理由に、治療開始の遅れや治療を受けられないという現状がある」と危機感を募らせた。

 そして、「7月に発表する声明は、タスクフォースの活動の第一段階であり、第二段階の活動として、コスト問題を解決するため、医療政策的な提言も行っていく予定」と今後の活動を明らかにした。

 このように、癌診療に関連する医療費の問題は、米国では大きな社会問題となっている。巨大な問題を前に、新規治療法の研究・開発に注力してきたASCOも、対策を迫られているのだ。

 幸い米国とは大きく異なる医療制度を持つ日本では、米国ほど極端に医療費が治療法選択に影響することはないだろう。それゆえ、ASCOの推奨がそのまま日本にも受け入れられるとは考えにくい。

 しかし日本でも、癌診療に関わる医療費の負担は増加を続け、治療費が払えないために治療の中断を選択する患者は現実に存在する。

 医療費に対する日本独自の対策や、新たなコンセンサスの模索を始めるべきときが来ているのではないだろうか。