大腸癌は、肝臓や肺、腹膜など、他の部位に比較的転移しやすいことが知られている。転移巣の治療に当たっては、例えば肝転移の場合、完全に切除できるかどうかがまず判断される。これまで、転移巣が大きい、数が多い、などにより切除不能だとわかった場合には、全身化学療法よりも、抗癌剤を肝動脈内に注入する肝動注療法や、癌を熱で固める熱凝固療法を行う外科医が多かった。ところが近年、有望な治療薬が続々と登場、外科医の間にも全身化学療法を行う意義が徐々に浸透しつつある。

 1月25日に福岡で開催された第68回大腸癌研究会では「大腸がんの転移・再発に対する外科治療」が主題の一つだった。自治医科大学消化器外科の鯉沼広治氏は、両葉多発肝転移で、腸閉塞や進行性の貧血の無い大腸癌症例に対しては初回治療としてmFOLFOX6療法を、原発巣関連の症状がある場合には原発巣の手術後にmFOLFOX6療法を行っていると紹介し、自施設での治療成績を発表した。

 対象は、2006年4月から2007年8月に治療した大腸癌患者21例(平均年齢60歳、男性16例、女性5例)。肝転移個数は平均8個で、最大腫瘍径は平均3cm、原発巣の切除を先行したのは10例だった。mFOLFOX6療法は平均8コース、3〜15コース実施された。

 肝転移に対する効果は、CR(完全奏効)2例、PR(部分奏効)10例、NC(不変)4例、PD(進行)5例だった。このうち、CR2例はともに原発巣を先に切除しており、肝切除を行わずに経過観察となっている。さらに、PR10例中半数の5例で肝切除が可能な状態となり、4例で切除が行われた。手術後、観察期間は短いが、まだ再発はみられていないという。

全身化学療法から始めて肝切除を目指す治療も選択肢に

 こうした結果から、鯉沼氏は「原発巣関連の症状がない両葉多発肝転移大腸癌の初回治療として、FOLFOX療法から始めて肝切除を目指すことも、選択肢の一つになると考えられる」と結論づけた。

 このほか、IFLやFOLFILIといった、多彩な術前化学療法が紹介された。化学療法を数カ月の長期にわたり実施することについては、海外では否定的な報告もあるが、発表は、6〜8コース実施した後で病変の再評価を行うという方針を示したものが多く、長期間の化学療法によって増加する可能性のある副作用に配慮したためと推測された。

 口演および示説セッション終了後の総合討論で、示説セッションの司会を務めた東京慈恵会医科大学消化器外科の矢永勝彦氏は、「発表全体を聞いていて、術前の化学療法を行うことで、切除不能と思われた大腸癌肝転移の20〜30%が肝切除可能になる、という印象を持った」と、期待を込めた。

切除可能な大腸癌肝転移への対応は結論出ず

 また、札幌医科大学第一外科の西舘敏彦氏は、大腸癌肝転移例に対して、原則的にFOLFOX療法を行い、1カ月間の休薬期間後に病変を再評価して、切除適応例に肝切除を行っていると紹介した。ただし、こうした切除不能とまでは言えない多発肝転移に対して、すぐに肝切除を行うか、それとも先に化学療法を施行して、計画的な待機手術を行うかについては、専門医の間でも意見が分かれ、結論は出なかった。

 とは言っても、転移巣の部位を問わず、積極的に転移巣を繰り返し切除する方が予後が良好との発表が多かった。札幌厚生病院外科の益子博幸氏は、近接腹膜のみ、および遠隔腹膜の少数に転移を認めるP1〜2の症例では、治癒切除が難しいと判断しても腹膜転移を切除していると示説セッションで発表、有意差はなかったものの、非切除例よりも予後が良好である傾向があったとした。これまで、大腸癌が腹膜に転移した場合、そのすべてを手術で完全に切除することは難しいため、化学療法が行われることが多かった。

 最後に、総合討論の司会を務めた自治医科大学附属さいたま医療センター外科の小西文雄氏は、「肝転移は化学療法が多彩になってきたし、肺転移はステージ分類の作成を目指す新プロジェクトが立ち上がった。転移・再発大腸癌の治療は新たな局面を迎えている」とまとめた。来年に改訂時期を迎える大腸癌治療ガイドラインに、こうした最新の知見が反映されることを期待したい。