癌治療に尽力する各地の薬剤師にスポットを当てるこのコーナー。第5回は住友別子病院薬剤部の矢野琢也氏だ。


──医局に頻繁に顔を出していると伺いました。

矢野 はい。今は他院に移られた先生が当時、私を医局に引き込んでくださいました。医局では患者さんの情報が飛び交っていますが、そこに薬剤師がいると議論がさらに有意義になると感じています。

 面と向かって何かを議論しているわけではなくても、同じ部屋にいれば患者さんの治療に関する検討が自然と耳に入ってきますので、「あの患者さんはこの薬を飲んでいるから、その薬は相互作用に注意が必要ですよ」など、議論に参加していくことが出来ます。「今度こういう患者が入院してくる」という話を医師がしているのを聞けば、「それならば通常はほとんど動かないあの薬を確保しておく必要があるな」と事前に手配しておくことも可能です。

 個人的には、医師の傍らに常に薬剤師がいるのが理想だと思っていますので、いつでも声をかけていただける、あるいは声がかけられる点で、医局にいられることは良いことだと考えています。私自身が時には医局で弁当を食べていたりくつろいでいたりすることもありますが、それだけ医局に行きやすい雰囲気が当院にあるのだと思っています。

 医師の場合、17時半の定時を過ぎても仕事をされていますよね。看護師も夜勤の方もおられるわけです。そんなときに興味からいろいろと質問していると、丁寧に教えてくださるんです。私自身も他職種の方々の話を聞くのがとても好きでしたので、業務を終えた後、残って病棟や医局を「散歩」していました。医師にいろいろと分からないこと、疑問に思ったことを尋ねていると、そのうち「今度一緒に患者さんところに回る?」とか、「毎週木曜日にはここに来なさい。教えてあげる」などとおっしゃってくださるようになりました。こうして医師の処方にはどのような意図があるのかといった知識を身につけることができましたし、患者さんとのコミュニケーションもより積極的にできるようになったと思います。

 また、看護師さんの業務を見ていた結果、16時が日勤と準夜勤の方の交替時間であわただしくなりがちだということが分かりました。点滴の時間を16時前後に設定するとミスが起こりやすいと思ったので、点滴の時間をずらすようにしています。

医局では薬剤師も交えて患者の治療に関する議論が活発に行われている

 教科書など活字を読んでもなかなか頭に入ってきませんが、目で見たこと、耳で聞いたこと、身をもって体験したことは忘れられません。抗癌剤の副作用など、実際に見て、聞いて、身をもって理解した上で次からは必ず回避するということが大切だと感じています。薬剤師はもっともっと現場に行く必要があります。

──医師とコミュニケーションする時間も多いのですね。

矢野 そうですね。こうして医師の方々と頻繁にお話ししていて感じているのは、薬物相互作用について私たち薬剤師が協力できる機会が多いのではないかという点です。

 例えば、肺癌脳転移患者さんで脳転移による症状があると、その治療のために抗痙攣薬が処方されることがあります。このとき、ある種類の抗痙攣薬は薬物代謝酵素を誘導し、そのために抗癌剤の代謝まで変わってしまう可能性があるわけです。こういった相互作用は星の数ほどありますし、医師も全てが頭の中に入っているわけではないでしょう。薬剤師には1例1例チェックする義務があると思っています。

──前回の日本肺癌学会ではエルロチニブの薬物相互作用についてご発表されていました。

矢野 はい。我々の施設でエルロチニブを使い始めたきっかけは、髄膜播種の患者さんが入院されてこられたときでした。担当医師、その上司にあたる医師、そして私も参加させていただき治療内容を検討していたのですが、このケースで当院では初めてエルロチニブを処方することが決まりました。そのとき医師に「相互作用はすべて任せた。処方を変えなければならない場合は指摘してくれ」と言われたのです。