癌治療に尽力する各地の薬剤師にスポットを当てるこのコーナー。第3回は静岡県立静岡がんセンター薬剤部主任の鈴木賢一氏だ。



──毎日、医師のカンファレンスに参加されているそうですね。

鈴木 はい。現在、私は呼吸器内科を担当しており、毎朝、呼吸器内科の医師が集まるカンファレンスがあるのですが、これに参加させてもらっています。

 我々薬剤師も毎日病棟を回って処方内容や検査値の確認などを行っていますが、疼痛や副作用の症状をアセスメントする場合、「どの時間帯に症状が出るのか」「その症状によってどのような不都合が生じているか?」などを具体的に聞くようにしています。例えば、痛みによる不眠や、指先のしびれにより趣味である手芸が続けられないなど、患者によってさまざまな状況があります。このような症状を緩和するために、医師に治療方針を確認しながら、カンファレンスなどで処方提案をしていくことは我々の重要な役割だと思います。

 また、カンファレンスに参加することで入院した患者さんの情報を効率的に収集する機会にもなります。抗癌剤治療を始めたいのに、症状がコントロールできず、抗癌剤治療が始められないといったケースを散見しますが、そんなときは必要に応じて薬剤情報提供や処方の提案を行い、できるだけ早く治療を開始できるよう支援することを心がけています。

──普段から癌治療にかかわる立場として常に念頭に置いていることはありますか。

鈴木 最近、よく感じていることなのですが、我々薬剤師からの症状緩和や副作用予防にかかわる提案が、最終的には治療効果を高めることにつながるのだということをもっと意識すべきだと思います。

 癌の進行に伴う症状や、抗癌剤の副作用がコントロールできなければ、次の治療が始まるタイミングが遅れてしまったり、次の治療の抗癌剤を減量せざるを得なくなってしまったりと、患者さんにとっては治療効果を弱めることにもつながるため、大きな不利益となります。

 数年前、非小細胞肺癌を対象としたエルロチニブの臨床試験で、副作用である皮疹の重篤度が高いほど生存期間が延長するという結果が示されました。近年、相次いで登場している分子標的薬には、副作用が有効性の“マーカー”である場合があります。副作用が発現してしまったから休薬や減量せざるを得ないという状況をできるだけ回避することは患者さんにとって大きな利益につながると思います。最近になり副作用をできるだけ予防したり、症状を軽く抑えたりするために、薬剤師としてできることは何かをより深く考えるようになりました。

──これまで以上に副作用対策の重要性が高まっていると言えますね。

気軽に参加できる勉強会だが、電子カルテをもとに内容の濃い議論を行っている

鈴木 そうですね。当院の薬剤部では高い専門性に対応するために癌領域ごとに担当スタッフが分けられています。このシステムは専門性を追求するためにはたいへん都合がよいのですが、いざ副作用対策に難渋する場合にはこの専門性という垣根を取り払い、みんなで協力して対策を相談できる柔軟な環境が必要と感じていました。また日常的な副作用対策のスキルアップも兼ねて、毎週水曜日の業務終了後に薬剤部内で症例検討会を開催しています。

 この会は自分が担当している患者さんに関して、困っていること、悩んでいることなどを気軽に話し合える場となっているほか、副作用など臨床で困っている問題点について勉強し、スライドにまとめてスタッフの前でプレゼンしたりする場となっています。自分1人で全てのことを学ぼうとすると大変ですが、1つのテーマを集中して学び、みんなでディスカッションすることでとても効率よく理解できます。だらだらと長時間やっても非効率になるだけなので、毎回1時間と決めています。

 この勉強会は、患者さんに服薬指導を行うために使っている小さな部屋に集まって、電子カルテの画面を見ながらやっています。気軽に意見を交換できる場にしたいので、参加は自由です。一見雑談しているように見えるかもしれませんが、その通り雑談の延長のような雰囲気で行っています。でも、毎回、内容の濃い“雑談”なんですよ。

──癌治療に携わる上で注意すべきことはありますか。

鈴木 癌患者さんだけに限ったことではないのかもしれませんが、治療のアウトカムがどこに設定されているのか、常に念頭に置いておく必要があると思っています。そして、場合によっては、教科書に書かれていることとは違う判断をすることもあるということです。

 例えば、糖尿病患者の場合、基本的には血糖値のコントロールや食事制限は厳格に行う必要があるので、服薬指導の際に食事制限などの話もしますよね。

 しかし、糖尿病を合併した癌患者さんの場合、治療のアウトカムや予後を考えた上で、時には多少血糖コントロールが悪くなるかもしれないけれど、おいしく食べられるものを優先して摂っていただくことで、精神的安心につながることがよくあるわけです。おいしく食べられるものは必ずしも栄養的に優れているものばかりではありません。例えばカップラーメンやソースヤキソバなど、どちらかというと体に悪そうなイメージのものが多いですよね。それでも吐き気がして食べられないというよりはよっぽど良いと思います。現在の治療方針や患者の予後を常に念頭に置いて判断することが重要ですね。

──最後に、癌診療に携わる薬剤師へのメッセージをお願いします。

鈴木 抗癌剤治療は新薬が次々と出てきますし、それに伴って副作用も多様化してきています。いくら優れた抗癌剤が開発されても、支持療法の質的向上なくして十分な治療効果の向上は得られません。

 また、ここ数年、がん専門薬剤師やがん薬物療法認定薬剤師制度が施行され、専門的な知識をもった薬剤師が増えています。専門的な薬剤師が主導して支持療法のエビデンスを構築していくことも今後の重要な責務と感じています。支持療法の領域ではまだまだエビデンスが不十分な点が多く、吐き気やしびれ、吃逆など日常的に当たり前のように困っている事例は少なくありません。医師は治療効果の向上のために日々学んでいます。我々薬剤師は癌薬物療法の質的向上のために、もっともっと勉強し、新しい情報を発信し続けなければならないと思っています。

 従来の薬剤師業務は、抗癌剤のミキシングや薬剤の説明など、いわば受動的な業務が多かったわけですが、薬剤師に求められている専門性は確実に変化しています。さらに能動的に専門性を生かし、安全かつ効果的な癌薬物療法を担う存在になるべきだと思います。