癌治療に尽力する各地の薬剤師にスポットを当てるこのコーナー。第1回は癌研有明病院薬剤部長の濱敏弘氏だ。近年、分子標的薬が相次いで臨床応用され、これまでの抗癌剤との違いや組み合わせなど、癌の薬物治療はますます多様になると考えられる。癌診療に携わる薬剤師に求められる姿勢を聞いた。


──癌診療における薬剤師の役割は高まっています。改めて、癌診療にかかわる薬剤師が常に意識しておくべきことをお聞かせください。

 癌以外の疾患では、患者さんへの薬剤の説明は、個々の薬剤ごとに効果や副作用について行うことが普通だと思います。しかし、癌治療においては、個々の薬剤について効果と副作用を説明することはあまりありません。抗癌剤についてはあまり意味がないと思っています。

 というのも、癌の薬物療法はレジメン単位で行われているからです。1つ1つの薬剤について説明するよりも、レジメン単位で説明する必要があります。ここが他の疾患に対する服薬指導と大きく違うところです。

 例えば、大腸癌の治療薬である分子標的薬ベバシズマブの使用上の注意の解説を見ると、国内で行われたベバシズマブの2つの臨床試験(JO18157試験、JO18158試験)の結果が記載されています。副作用の項目には、2つの試験ともに高血圧の発生率はともに30%程度で、2つの試験の合計した平均発生率も約30%になります。一方、末梢神経障害など神経毒性については、1つの試験では0%、もう1つの試験では70%に見られたという結果でした。末梢神経障害の発生率について、2つの試験を合計して発生率を評価すると約30%となり、見かけ上、高血圧も末梢神経障害も30%となります。しかし、「ベバシズマブを投与される患者さんの3人に1人が末梢神経障害が発生します」と説明することはないでしょう。

 なぜこんなことがおこるのか。同じ分子標的薬を使っているのに特定の副作用の発生率が違ってくるのは、この2つの臨床試験ではベバシズマブと併用するレジメンが違うからです。70%の神経毒性がみられた試験は、オキサリプラチンを含むレジメンとの併用試験であり、この神経障害はオキサリプラチンに由来するものであることが分かります。0%であったほうの試験にはオキサリプラチンを含まないため、末梢神経障害はありませんでした。

 そのほかに、投与方法によっても副作用は異なってきます。

 大腸癌の化学療法のキードラッグのひとつに5-FUがあります。IFLレジメンとFOLFIRIレジメンは、ともに5−FUとイリノテカン+ロイコボリンを組み合わせたレジメンですが、IFLレジメンは5-FUをボーラス投与します。一方、FOLFIRIレジメンでは、5-FUを点滴投与します。この投与方法の違いで発生する副作用が異なることが報告されています。

 5-FUをボーラス投与するとグレード3/4の重篤な血液毒性が31例に見られましたが、点滴投与では4例でした。逆に、手足皮膚反応(Hand-foot syndrome)はボーラス投与で13例ですが、点滴投与で34例でした。同じ薬剤なのにこんなにも副作用の出方が違うのです。

 また、副作用は治療前あるいは治療後に行う支持療法によっても大きく違ってきます。吐き気が強いレジメンを受ける場合、事前に5HT3受容体拮抗剤を使うか使わないか、あるいは副腎皮質ホルモン剤をどれだけ投与するか、などによって副作用の出方は大きく違ってきます。また、投与10日から14日後には好中球数が減少しますから、感染防護に対する理解の確認や、発熱時の抗菌剤投与についても指導と確認が必要となります。薬剤師が抗がん剤の投与を受ける患者さんに接する場合、抗癌剤だけでなく支持療法薬を含めたレジメン単位での服薬指導が大切と考えます。