抗悪性腫瘍剤(抗癌剤)は、ハイリスク薬の中でも、チェックの非常に難しい薬剤です。

 従来、入院して治療を行わなければなかった癌患者が、薬学の進歩により、外来通院で治療できるようになりました。最近は、外来化学療法を実施している施設が非常に多くなっています。

 病院薬剤師は、この癌の外来化学療法に関して、病院内での処方鑑査や薬剤調製などに非常に熱心に取り組んでいます。しかし一方で、インスリン以外の注射剤をほとんど扱ってこなかった多くの薬局薬剤師は、「注射剤のことはよくわからない・・・」という状況に陥っています。

 現代の癌化学療法では、病院で投与される注射剤と、薬局で調剤する内服薬を組み合わせて治療することが多くなっています。しかし薬局では、処方せんに書かれた内服薬のことしかわかりません。病院で投与された注射剤に関しての情報はないし、知識も十分にないことが多い。それでは当然、病院薬剤師が行うような厳密な管理が行えるわけがありません。

 病院と薬局の双方の事情を詳しく知る人間の一人として、これは大きな社会問題だと考えています。

 このような事態が起こるのは、癌化学療法のレジメンを公表している病院がまだまだ少ないことや、注射剤に関する薬情などがほとんどないことが一因です。レジメンとは、支持療法をも含めた薬物治療計画書のようなものです。処方せんに、レジメン名やレジメンの内容が書かれていればいいのですが、実際には書かれていません。

 さらに言えば、癌患者はインフォームドコンセントの際に、化学療法に関して詳細な説明を受けているはずですが、自身の受けている治療の詳細について、薬局薬剤師に積極的に語ってくれる患者は非常に少ないのが現状です。

 このような、いわば完全にアウェイな状況で、薬局薬剤師は抗癌剤の何をチェックすれば良いのでしょうか。以下は、私の個人的な考えです。抗癌剤の一般論として、特に、見逃されやすい部分について触れてみます。



●レジメンを確認する

 これは、あくまでも「可能であれば」です。

 癌の場合、患者本人がナーバスになっていることが多いですし、病院で厳密に副作用チェックが行われているわけですから、薬局で再び情報収集に協力してもらうというのは、かなり困難だと思います。無理をせず、薬剤師都合を優先しないように、十分に配慮する必要があるでしょう。

 レジメンを確認できた場合には、併用している注射剤の副作用もモニタしなければなりません。これは、忘れられがちです。


●用量のチェック

 抗悪性腫瘍剤の添付文書では、一般に用量が「体表面積あたり」で記載されているため、チェックに苦慮している姿を見かけます。

 体表面積は、「体表面積=体重0.425×身長0.725×0.007184」という計算式で求められます。このウェブサイトでは、身長と体重のデータを入れると体表面積が自動で計算されます。

http://www.ne.jp/asahi/akira/imakura/Hyomenseki.htm

 いずれにせよ、抗癌剤の用量が適正かどうかを確認するには、患者の身長と体重のデータが必要です。でも実際には、身長や体重を教えてもらえない場合もあるでしょう。そうした場合には、標準的な健康成人の体表面積、具体的には、男性は1.6m2〜1.7m2、女性は1.5m2〜1.6m2程度を目安に、処方せんをチェックするとよいでしょう。


●用法のチェック

 多くの抗悪性腫瘍剤には、休薬期間が設けられています。骨髄抑制などの作用が強いため、休薬期間中に、体力が復活するのを待つのが目的の一つです。ただし、この休薬期間は治療法によって変わりますし、しかも添付文書通りでない場合があるのが、厄介なところです。

 特に、注射剤と内服薬をコンビネーションで使用するときなどは、添付文書と異なる用法が多く見られます。

 1例を挙げると、ティーエスワン配合カプセルは、添付文書では、「朝食後及び夕食後の1日2回、28日間連日経口投与し、その後14日間休薬する。これを1クールとして投与を繰り返す」と書かれていますが、膵臓癌の治療にゲムシタビン(商品名:ジェムザール注)と併用する場合には、2週間服用、1週間休薬です。

 添付文書通りかどうかはともかく、レジメンに書かれた休薬期間は、厳密に守らねばなりません。ですが、入院治療と異なり、外来化学療法では患者自身が休薬期間をきちんと自己管理しなければなりません。ですから、薬剤師は、休薬期間をきちんと把握しているかどうかを確認するとともに、患者が自宅で確認できるように、薬袋にも休薬期間を記載しておくと良いでしょう。

 当社では、その次に担当した薬剤師が休薬期間を確認できるように、患者と確認した「休薬期間」を薬歴に記録しておくようにしています。


笹嶋勝氏(日本メディカルシステム株式会社〔東京都中央区〕) ささじま まさる氏。大学病院でDI(医薬品情報管理)業務の責任者として8年間勤務した後、現在は、薬局チェーン「日本メディカルシステム」の学術部門長として勤務。東京薬科大学薬学部客員教授。日経ドラッグインフォメーションのウェブサイト「DIオンライン」にて「笹嶋勝の『クスリの鉄則』」を連載中。