2010. 9. 3
日本の頭頸部癌の罹患率および死亡率は近年増加しており、特に口腔・咽頭の癌の罹患率は男女ともに約2倍に増加しているとの報告もある。咽頭癌は男性で増加しており、女性では横ばいとなっている。
1335例を対象とした2001年度日本頭頸部癌学会による頭頸部悪性腫瘍全国登録によれば、頭頸部癌の組織型は扁平上皮癌が全体の90%以上を占めていた。そのため、治療は扁平上皮癌を中心に研究されてきた。そのため他の組織型ではほとんどエビデンスがない状態だ。
「頭頸部癌取扱い規約」(2005年、改訂第4版、日本頭頸部癌学会/編)によると、頭頸部癌の原発腫瘍の対象となる部位は、口唇および口腔、鼻腔および副鼻腔、上咽頭、中咽頭、下咽頭、喉頭、唾液腺、甲状腺である。
原発腫瘍はT分類で表し、口唇および口腔を例にとると、Tisは上皮内癌、T1は最大径が2cm以下の腫瘍、T2は最大径が2cmをこえるが4cm以下の腫瘍、T3は最大径が4cmをこえる腫瘍である。T4は骨髄質、下歯槽神経、口腔底、皮膚に浸潤する腫瘍で、舌深層の筋肉や外舌筋、咀嚼筋間隙、頭蓋底などへの浸潤によりT4aとT4bに分かれる。
所属リンパ節はN分類で表す。口唇および口腔の所属リンパ節は頸部リンパ節で、N1は同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cm以下、N2はこの最大径が3cmをこえるが6cm以下、または同側の多発性リンパ節転移で最大径が6cm以下、または両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が6cm以下の場合である。N2はリンパ節転移の数と最大径によりNa2からN2cの3段階に分類される。N3は最大径が6cmをこえるリンパ節転移である。
頭頸部癌のステージ別の頻度をみると、ステージIIIとIVで全体の約60%に上り、局所進行癌が多いことがわかる。ステージIIIは、T1またはT2でN1の場合、あるいはT3でN1までの場合である。ステージIVは、IVAがN2かつT3あるいはT4aの場合である。IVBがNに関係なくT4bの場合、あるいはTに関係なくN3の場合で、IVCがT、Nに関係なくM1の場合である。
頭頸部癌の病態や発生頻度、予後は、口腔や鼻腔などの亜部位により異なる。発生頻度が高いのは口腔癌で、頭頸部癌全体の35%以上を占める。喉頭癌、下咽頭癌がこれに続く。
発症要因で知られているのは飲酒と喫煙で、頭頸部癌全体の約80%に関与しているといわれる。上咽頭癌ではエプスタイン・バー(EB)ウイルス、中咽頭癌と口腔癌ではヒトパピローマウイルス(HPV)感染も関与し、亜部位により発症要因が異なる。
米国国立癌研究所(NCI)のデータによると、最も予後が良いのは上咽頭癌で、下部になるほど予後は不良となり、下咽頭癌が最も不良である。
このように頭頸部癌は亜部位により発症要因や予後が異なることから、上顎洞癌、上咽頭癌、口腔癌、中咽頭癌・喉頭癌・下咽頭癌に分けて治療の開発が行われてきた。
●上顎洞癌の治療
上顎洞癌は初期に症状が出現しにくく、約80%は初診時にT3、T4の局所進行癌となっている。欧米の標準治療は外科的切除後に放射線療法を行うことであり、5年生存率は36〜51%と報告されている。これに対し日本では、動注化学療法を中心に減量手術と放射線療法を併用する三者併用療法が一般的である。5年生存率は42〜70%と良好な成績であるが、外科的切除との比較試験の報告がなく、エビデンスレベルとしては低い状況にある。
●上咽頭癌の治療
上咽頭癌は解剖学的に外科的切除が困難な部位であるため、ステージI、IIでは放射線療法、ステージIII、IVでは化学放射線療法が標準治療となっている。
上咽頭癌の組織型はWHOの分類によると、Type Iは角化傾向のある扁平上皮癌、Type IIは角化傾向のない扁平上皮癌、Type IIIは未分化癌とされる。上咽頭癌は疫学的に中国南部に多く、この地域の上咽頭癌は風土病とも呼ばれる。北米では上咽頭癌の約25%がType Iであるが、中国南部ではほとんどがType IIIの未分化癌である。化学療法、放射線療法との感受性は組織型で異なり、Type Iは不良、Type II、IIIは良好である。そのため中国南部に多い上咽頭癌の予後は比較的良好と考えられる。
欧米で実施されたIntergroup Study(INT)0099では、ステージIII、IVの上咽頭癌を対象とし、放射線療法単独群とシスプラチン(CDDP)を用いる化学放射線療法を施行後に5FU+CDDPによる化学療法(FP療法)を行う群を、フェーズ3の無作為化試験で比較した。化学放射線療法群で無増悪生存率(PFS)、全生存率(OS)ともに明らかに優れていることがわかった(下図)。この試験の結果から、欧米では上咽頭癌の標準治療は化学放射線療法とされている。
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INT0099試験の結果を中国南部における風土病の上咽頭癌、すなわち放射線療法の感受性が良好なType IIIの上咽頭癌にも適用できるのかという点は、長年議論されてきた。そこで風土病の上咽頭癌が多い地域で同様の試験が行われ、無病生存率(3年)は放射線療法単独群で53%、化学放射線療法群で72%と、後者で有意に良好であった(p=0.0093)。また全生存率(3年)はそれぞれ65%と80%で、同様に化学放射線療法群で有意に良好であった(p=0.0061)ことから、風土病の上咽頭癌においても標準治療は化学放射線療法と認識されるようになった。
●口腔内癌の治療
口腔内癌のなかでは舌癌が約60%を占める。日本では外科的切除が主で、動注化学療法も行われる。欧米では化学放射線療法も行われるが治療成績は不良であり、日本では化学放射線療法は行われていない。
●局所進行頭頸部(中咽頭・喉頭・下咽頭)扁平上皮癌の治療−切除可能例
切除可能な場合の標準治療は外科的切除で、再発リスクに応じて術後補助療法を加える。喉頭温存を患者が希望する場合や切除不能の場合は化学放射線療法が標準治療となる。導入化学療法や分子標的薬による治療は、現時点では試験的治療とされる。
この部位の術後補助療法は、切除断端陰性でN0またはN1、節外進展を認めないLow risk群に行うメリットは認められておらず、切除断端陽性でN2以上、節外進展を認めるHigh risk群のみを対象とするべきである。
術後補助療法としては放射線療法がこれまで行われてきたが、治療成績の向上を目指して術前および術後の補助化学療法、術後の放射線療法後に術後補助化学療法を行う方法、術後の化学放射線療法など、さまざまな方法が検討されてきた。しかし、術後化学放射線療法以外の治療法において生存への上乗せ効果は得られない結果であった。
1996年に報告された、High risk群を対象としたCDDPを用いる化学放射線療法群と放射線療法単独群との比較試験では、化学放射線療法群が無再発生存率、生存率は有意に優れ、局所再発率も良好であることが報告された。
その後European Organization for Research and Treatment(EORTC)のEORTC22931試験やRadiation Therapy Oncology Group(RTOG)のRTOG9501試験でも、High risk群を対象に同じデザインの大規模試験が行われ、2004年に結果が報告された(下表)。両試験ともに化学放射線療法が局所再発率、無再発生存率で有意に上回っていたことが示され、さらにEORTC22931試験では生存率も有意に良好であった。以上から、術後補助療法の標準治療は、術後化学放射線療法となった。
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ただし、欧州と米国ではHigh risk群の定義が異なっている。両試験の共通する因子は「切除断端陽性」と「節外進展を認める」の二点のみであった。この二つの因子を集めたサブセット解析では、両試験ともに生存のベネフィットが化学放射線療法群にあることが示された一方で、その他の因子については化学放射線療法のメリットは少ないことも示された。
このことから、術後化学放射線療法のメリットが最もあるのは、「切除断端陽性」あるいは「節外進展を認める」High risk群と認識されている。
●局所進行頭頸部(中咽頭・喉頭・下咽頭)扁平上皮癌の治療−切除不能例
切除不能局所進行頭頸部癌に対する放射線療法単独群と化学放射線療法群を比較する複数の試験において、CDDPを用いる化学放射線療法群が局所制御率、生存率において優れていることが示され、標準治療と考えられるようになった。
放射線療法と併用するレジメンのメタアナリシスでは、白金系抗癌剤とFP療法で有意に良好であった。ただし、CDDP単剤を上回るレジメンが出ていないため、欧米ではCDDPが標準治療と考えられている。日本ではFP療法が一般的に行われている。
2004年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)では、ステージIII、IVの局所進行頭頸部扁平上皮癌を対象に、放射線療法単独群と放射線療法とセツキシマブを併用する群の比較試験の結果が発表された。セツキシマブを併用する群で局所制御率、生存率が良好であった(下図)。生存の上乗せ効果を示したこの報告は注目を集めたが、ステージIII、IVの局所進行頭頸部扁平上皮癌の標準治療は化学放射線療法であるため、対照を放射線療法単独群としたことへの批判も出た。放射線療法にセツキシマブを併用する治療は新たな標準治療とはいえず、化学放射線療法が行えない場合に限定するべきと考えられている。
●局所進行頭頸部扁平上皮癌に対する導入化学療法
局所進行頭頸部扁平上皮癌に対する導入化学療法として行われているFP療法は、奏効率85%、完全奏効率40%と高い抗腫瘍効果を示し、ダウンステージングが期待できるとして、外科的切除や放射線療法の局所治療前に行われてきた。しかし、局所治療単独群と導入化学療法群の比較試験はほとんどがネガティブな結果であった。局所治療への化学療法の上乗せ効果を検討したメタアナリシスでも、導入化学療法に上乗せ効果はないことが示された。
それでも導入化学療法が廃れないのは、化学放射線療法の毒性を憂慮する医師が少なくないためである。特に欧州では導入化学療法が多く行われ、複数の臨床試験が進行中だ。
2004年と2006年のASCOでEORTCから発表されたTAX323試験では、切除不能な扁平上皮癌を対象として、導入化学療法としてドセタキセル+CDDP+5FU(TPF)、またはFP療法を行い、その後全例に局所治療として放射線療法を行った。その結果、PFS、OSともにTPF療法群で有意に良好であることが明らかになった(下図)。しかしこの試験では、TPF療法群のOSが18.6カ月と20カ月を切っており、これまでに報告された化学放射線療法と同等以下という結果のため、局所治療が放射線療法単独である点が批判された。
またTAX324試験は北米と南米を中心に行われ、2006年のASCOで結果が発表された。この試験では導入化学療法としてTPF療法またはFP療法を行い、その後の局所治療はカルボプラチンを用いる同時化学放射線療法とした。その結果、PFS、OSともにTPF療法群で有意に良好となった(下図)。
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ただし、この結果は導入化学療法としてTPF療法が優れていることを示したに過ぎず、標準治療の化学放射線療法との比較ではない。現在、導入化学療法と化学放射線療法を比較する臨床試験が複数行われているが、その結果を待たなければ導入化学療法を加える意義はわからない。したがって、現時点では導入化学療法は一般臨床で行うべきではないと言われているが、欧米では一般臨床で使用している施設が増えている。
●喉頭温存を希望する局所進行頭頸部癌の治療
方向性を決めたのは、喉頭癌を対象としたフェーズ3のRTOG91-11試験で、放射線療法単独群、CDDPを用いる化学放射線療法群、FPを用いる導入化学療法を行う群を比較した。主要評価項目の喉頭温存率は、化学放射線療法群が最も優れていた。局所制御率についても化学放射線療法群が有意に良好だった(p=0.0018)(下図)。一方、喉頭切除なしの生存率(Laryngectomy-Free Survival)と遠隔転移無発生率(freedom from distant metastases)、無再発生存率の3つの指標については化学放射線療法群と導入化学療法群の5年間の成績は同等で、全生存率については3群間の5年生存率はほぼ同等だった。
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喉頭温存を希望する場合の標準治療は化学放射線療法と認識されているが、局所治療の成績向上を求めすぎたため、治療後の発声や嚥下といった喉頭機能の障害が問題となっている。正常な機能の喉頭を残すことを目指した治療開発が今後の課題である。
●再発・遠隔転移頭頸部扁平上皮癌の治療
頭頸部扁平上皮癌の再発・遠隔転移に対する抗癌剤単剤の効果は13〜40%である。ベストサポーティブケア(BSC)と抗癌剤単剤の比較試験でCDDP単剤による化学療法がBSCを上回り、CDDP単剤を上回る生存への寄与を期待してFP療法を主とした多剤併用療法の無作為化比較試験が多く行われている。しかし、CDDPをこえる報告はない。現在この領域の標準治療は確立されていないとされ、抗腫瘍効果が良好なFP療法が一般的に多く行われている。上皮成長因子受容体(EGFR)阻害剤のゲフィチニブやセツキシマブなどの単剤投与については、複数の試験が実施されたが、奏効率はいずれも10%前後で、良好とはいえない成績である。
Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)が行ったフェーズ3のECOG5397試験では、CDDP単剤を投与する群とCDDPにセツキシマブを併用する群を比較し、セツキシマブの上乗せ効果を評価した。全奏効率は、CDDP単剤を投与する群の10%に対し、CDDPにセツキシマブを併用する群では26%で、セツキシマブの併用で有意に良好となった(p=0.029)。PFSおよびOSに有意差を見出すことはできなかったが、米食品医薬品局(FDA)は、この試験の結果から再発・遠隔転移例に対してCDDPとの併用についてセツキシマブを認可した。
2007年のASCOにてヨーロッパ17カ国80施設で行われた遠隔再発頭頸部扁平上皮癌を対象としたFP療法とFP+ Cetuximabの無作為化比較試験(EXTREME study)の結果が報告された。全442例が登録され、PF療法にcetuximabを加えた群の全生存期間中央値は10.1ヶ月であり、PF療法単独群の 7.4ヶ月に比べて有意に優れており(ハザード比0.797, p=0.0362)、Cetuximabの生存への上乗せ効果が示された。生存においてPlatinum-basedの化学療法を上回る治療法がこれまで報告されてなかったことから、この結果は非常に注目された。この結果から、Platinum-basedの化学療法にcetuximabを併用することが転移再発頭頸部扁平上皮癌の新たな標準治療と認識されている。
| 著者 (year) |
Phase | 対象 | 併用療法 | N | RR | Median PFS (TTP) |
Median OS |
| Baselga (2005) |
II | Platinum refractory |
CDDP or CBDCA |
98 | 10% | (85日) | 183日 |
| Herbst (2005) |
II | Platinum refractory |
CDDP | 25(PD/1) 54(PD/2) 51(SD) |
20% 6% 18% |
3.0カ月 2.0カ月 4.9カ月 |
6.1カ月 4.3カ月 11.7カ月 |
| Buentzel (2007) |
II | Platinum refractory |
PXL+CBDCA | 23 | 56% | 5カ月 | 8カ月 |
| Burtness (2005) |
III | First line | CDDP Placebo |
58 58 |
26% 10% p=0.03 |
4.2カ月 3.1カ月 p=0.09 |
9.1カ月 8.0カ月 p=0.21 |
| Vermorken
(2007) |
III | First line | FP+Cetuximab FP |
222 220 |
35.6% 19.5% p=0.0001 |
10.1カ月 7.4カ月 p=0.0362 |
これまで頭頸部癌は進行した状態で発見されるケースが多く、重複癌も少なくないため予後が不良で、治療による発声や嚥下、咀嚼などへの影響からQOL低下が顕著な癌と受け止められていた。しかし最近では、分子標的治療薬の開発を含め、集学的治療による治療成績の向上も期待できるようになってきている。各治療法のエビデンスの集積が待たれる。